釣行日誌 故郷編

1998/07/04 朝焼けの絶景

5:00~13:00まで

 例のごとく川本君宅に深夜0:00に集合し、コンビニに寄る。今日も例の川へ行こうかということで、昼食をオニギリとし、パックの麦茶を買い込む。ベストの背中に入れて持って歩くためである。車中、ワールドカップの試合をラジオで聴きつつ走る。午前三時には林道へ到着する。暗闇の中、四時まで仮眠する。

 朝の雨もやみ、支度をしてガレ場を降りると、朝靄の中、本流が滔々と流れている。少し水量が多い。渓相は雄大で、好ポイントが連続するまさにフライフィッシングのための川である。静かに朝焼けの向こうから、太陽が顔を出し始める。

 最初のポイントを攻めていると、上流で釣り始めた川本君の竿が震えながら曲がっている。取り込んだ彼が振り向いて

「あまり大きくないよーっ!」

と叫んでいる。ともあれ、幸先の良いスタートである。

 二人で遡行を始めると、いきなり通らずの淵に出会う。しょうがないので左岸へ渡り、ウサギ沢を越えて行くことにする。しかし、この沢がえらい出水で、轟々と水鳴りがしており、なかなか渡るポイントが見つからない。意を決して対岸の岩へ跳ぶことにする。私が最初にジャンプし、竿を二本預かってから川本君が跳んだ。しかし、彼はこの跳躍で足首を少し挫いてしまった。どうやら大事は無さそうなので、再び釣り始める。

 ウサギ沢出会いの上流にある大きな淵で俊敏なライズが見られる。どうやら大きなアマゴが移動しながら水面の虫を食べているようである。ハッチは無いので、微細な何かを食しているようだ。キャストしずらいのを我慢して数回パラシュートを投げるが反応がない。流れ込みでもライズが見られたがこれも反応がないまま、遡上を続ける。朝のうちはドライには出ないのだろうか?

 川本君が別の大淵の流れ込みの岩影のライズを見つけ、ロングキャストを始めた。水面に落ちたパラシュートタイプのテレストリアルが沈み石の頂部を越えた瞬間に水面が大きく割れる。

「バシャッ!」

「むんっ!」

「ピシッ!」

 ドンぴしゃのタイミングで合わせたものの、なんと合わせ切れである。うーんと残念がる川本君に

「合わせ切れだよ」

 と言うと、確かに、ティペットの先のフライが無くなっている。ティペットに傷があったか、結び目が弱くなっていたためだろう。これも釣りのうちである。人ごとだから気楽に言えるのですが。

 数回魚影を見たものの、反応が渋く、会心のヒットが無いまま九時頃になったので、少し休憩する事にする。淵を見おろす岩影に腰を下ろし、何とはなしに水面を見ていると、パシャッとライズがある。流れ込みでもライズしている。どうやらまたアマゴのようである。私達は右岸側にいるのでてっきり右利きの川本君がやるもんだと思っていると、ここはどうぞと譲られる。

 うーん、苦手な逆手キャストになるなぁと思いつつも、淵の中央めがけて丁寧にキャストする。二回目のキャストでフライが流心に乗り、核心部に流れ着いたところで銀影が光った。

「!!」

 えいっ! と合わせたものの、ラインの弛みが大きく、わずかに合わせが遅れたようだ。水中で反転するアマゴの腹が白く目に残る。

「うーん、顎に鉤が触ったか?もう出ないかなぁ」

 あと数回同じポイントを攻めるが、反応が無くなってしまった。それじゃぁ、と思い、そろりそろりと上流に移動して、流れ込みの終わりから再びフライを流す。そろそろと流れたフライが淵の中央に達した瞬間、再び水面が割れた。

「!」

 やった!、今度は合った。ギュンギュンと大きく竿がしなり、水中を青い背中が右に左に疾走する。上流を攻めていた川本君が声を掛ける。

「どんなもん?」

「大きい!」

 彼がこちらに近づいてくるが、まだ魚は弱らない。ランディングの場所を見極め、慎重に寄せに入る。ネットを差し出してもバシャバシャと暴れていたが、なんとか掬い上げる。うーん、見事なアマゴである。体高のある本流育ちのアマゴの久しぶりに見る美しい魚体に、川本君ともども感心する。

 念のためにストマックポンプで胃の内容物を確認すると、小さなガガンボの成虫や、小さなニンフが少し出てきた。テレストリアル系の昆虫は入っていないが、孔雀を胴体に巻いたパラシュートをがっちりくわえている。

 写真を数枚取ってリリースすると、一目散に淵の中へと消えていった。

「うーん、いることはいるねぇ」

「あーぁ、譲らんとけばよかったなぁ」

「こんな淵のど真ん中で釣れるとは思わんかったよ」

 新しいテンリュウの三番ロッドに換えてから、初めてまともなアマゴを釣ったことになる。流行のロングティペット対応の柔らかな竿であるが、意外と腰が粘り、安心してファイトが出来た。もっとも淵の中を高いところから釣っていたので楽なシチュエーションであったが。

 気分を良くしてさらに上流へ向かう。

 アマゴを釣った淵の上流にお約束の岩魚ポイントがあり、対岸でやや釣りにくいものの、我慢してフライを流すと、するすると岩影から魚影が泳ぎだしパックリとくわえる。

「やったね!! ルンルン!」

 という気分で手繰り寄せると、思いのほか引きが強く、流れ込みの主流の中でのたうち回って抵抗している。

「おうおう元気のいい岩魚じゃて...」

 とほくそ笑みつつネットを差しだした瞬間、その魚体が細身のウグイであることを確認する。

「げげっ! こんなとこまでウグイがいたかっ!」

 と驚くが、下流にダムがあるのでウグイがいても不思議ではない。してやったりと思ったのもつかの間、そうそう世間は甘くなかった。しかし、気を取り直して、もう1メートル奥にある岩影を狙う。計算通りのタイミングでぽっかりと黒い魚影がフライをくわえて反転する。

「いただきっ!」

クンクンという引きを楽しみつつ寄せてくると、ガーン!またも丸い口が大切なフライを丸飲みしている! 大学時代の釣り同好会にはA先輩という面白い人がいたのですが、A先輩の名言「コイノクチ」である。

「勘弁してーな.....」

 ウグイの粘液にまみれたフライを乾かしながら、お約束ポイントで2尾のウグイに遊ばれた自分を苦笑する。川本君はもうだいぶ上流へ行ってしまったようだ。

 チャラチャラと流れる瀬が延々と続き、一見どこがポイントかわからない流れとなった。盛期の渓流釣りの醍醐味が味わえる場所である。

 こちら側と流心は川本君が攻めているはずなので、対岸の屁でも無いようなわずかな深みや石の裏を攻めてみる。17フィートに延ばした長いティペットのおかげで、苦もなく複雑な流れにフライを浮かせて自然に流すことができる。ここぞというポイントからは確実に反応があり、小ぶりではあるがきれいなアマゴや岩魚が顔を出す。

 流れを読み、思い通りにキャストを行い、期待通りに魚が出る。これが瀬釣りの面白さである。今日はカーブキャストが少し上達した。以前はカーブを掛けるタイミングが早すぎてフライの着水に影響を与えていたが、フライの着水直前にロッドをしゃくってカーブを掛けると、理想のラインスラックができることを知った。一歩前進、である。

 十一時半頃に、だいぶ疲れたこともあり、獣道を通って林道へ戻る。

 途中、神戸ナンバーの車が止まっており、おじさんがウェーダーを脱いでいるのに出会った。とりあえず声を掛けてみる。

「お疲れさまです。釣れましたか?」

「まぁボチボチで、そちらは?」

「いやぁ、ウグイばっかりで」

「餌はなんですの?」

「私らは毛針ですよ」

「ほーう!毛針にウグイが来ますか?」

「いやぁ、来てくれちゃって困るんですよ」

 などと会話を交わし、再び炎天下の林道を歩き出す。何だかんだで2キロ近くは歩いて戻らなければならないようだ。と、後ろからレガシーが走ってきたので、振り返ると、神戸ナンバーのおじさんが乗ってけと言う。遠慮せずに乗せてもらうと、おじさんはここへ来るのは二十五年ぶりだと言う。昔はこんなに立派な林道は無くて難儀をしたそうだ。などと話していると車を止めた場所まで来たので御礼を言って別れた。

17:00~19:30 支流にて ピアの岩~カーブの頭の瀬 まで

 その後、川本君の足の状態が悪いことが判明したので民宿泊りをやめ、別の支流へ向かい、昼寝の後で夕まずめを攻める。川本君は車で休むこととする。独りで夕まずめを楽しむのはいささか申し訳なかった。

 ここでは、魚の出が渋く、誰もやらないような地味なポイントでしか魚が出ない。案の定、帰り道で先行者と出会う。こりゃ、いけませんな。

 ということで、梅雨の合間の土曜日の釣りが終わる。

 来週もまたここへ来よう。

 今日のポイントは、

 出会った人にはあいさつを

 ということでしょうか。なんか小学校の校長先生みたいになってしまいました。

1998/07/04

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