釣行日誌 NZ編  「5000マイルを越えて」

ドアを開けて

1997/01/11(SAT)

 流心に突進した鱒があらん限りの力を振り絞ってラインを引き出していく。リールのドラグはストライクの瞬間から音を立て続けている。その音が止まった瞬間、鱒は空中高く舞い上がり、流れに突き出していた立木の枝を飛び越えた。

「おおっ!ニュージーランドの鱒はこれほど高くジャンプするのか!」

 しかし、着水の弾みであっけなく鱒の口からフライが外れてしまった。感動と落胆に呆然とたたずんでいる私の耳に、聞き覚えのある目覚まし時計の音が飛び込んできた。

目がさめてみると、土曜日の朝8時である。のそのそと起き出し、トーストとホットミルクの朝食にする。今日の午前中でどれだけフライを巻けるかわからないが、とにかく巻けるだけ巻いておこうと思った。

 サイズ14番のフックに8本目のフェザントテールを巻いていると、ステレオの曲が「500マイル」に変わり、ボブ・ディランのしゃがれた歌声が流れてくる。

 曲が終わる前に、もう1本だけフェザントテールを巻こうと思い、新しいフックのアゴをつぶしてバイスに夾む。その1本を巻き終え、ここ数カ月の苦労の賜物である自作フライで満杯になった4ケースのフライボックスに入れる。よいしょとバックパックを背負って立ち上がり、ロッドケースを肩に掛け、アパートのドアを開ける。釣り具は全て持った、旅券と航空券、クレジットカードもある。準備よし。忘れ物は無い。

 これからニュージーランド南島までの5,000マイルの釣りの旅が始まるのだ。

 頭にはウールフェルトのテンガロンハット、背には満杯のバックパック、肩に掛けた短い電信柱のようなロッドケースはかなり目立つ格好である。地下鉄の中、空港バスの中、航空会社のカウンターと、視線を交わす人みんなが示すやや引き気味の視線を自分の身に感じるものの、そんなことは気にしないのである。

 国際線の待合室には、修学旅行の高校生の制服があふれている。うらやましいものだと思いながら、はやる心を押さえつつ、文庫本の開高健「舞台のない台詞」を読む。搭乗を待つニュージーランド航空のパイロットやスチュワーデスが近くに座っており、早くも気分は盛り上がっていく。

 午後6時発のニュージーランド航空36便は満員のにぎわいであり、私の席は前列中央にあるビデオプロジェクタ画面のすぐ後ろであった。隣は一宮市から来たという夫妻であり、もう一組の夫妻と4人のツアーでニュージーランドを観光めぐりするそうである。現地での周遊ルートの話とか、昔行ったカナダの話とかをして、奥さんとずいぶん話が弾んだ。

 ビデオでは、ニュージーランドの観光案内が次々と上映され、温泉や牧場、スキーなどに続いて、湖のマス釣りが紹介された。釣り人がダブルホールでマラブーを遠投すると、ストライクした虹鱒が遥か彼方でジャンプを繰り返した。

「フフ、イマニミテイロ」

と、機内食のスキヤキを食べ、ニュージーランド産の白ワインを飲みつつうそぶくのである。

 機内上映の映画は、短縮版の「インディペンデンスデイ」である。いろいろと感じるストーリー上の難点をこらえつつ、よくもここまでマジに作るもんだと感心する。たまには「エアポート75」とか「生きてこそ」「パッセンジャー57」などをやらないものかと思うが、それは無理な注文であろう。


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