釣行日誌 NZ編  「5000マイルを越えて」

ウェストランドへ

1997/01/12(SUN)-2

 ビルの車は、赤色の日産テラノ(現地名ナバラ)で、4席タイプ、後部荷室はキャノピーのついたピックアップトラック仕様である。空港を抜け、郊外の幹線道路73号線に出ると、周囲は一面の農場や牧場が広がり、そこここで、ヒツジの群が牧草を食んでいる。松延さん夫妻の言うには、車は8割方日本車のようで左側通行だし、風景は北海道と似ているのでそんなに違和感は無いとのこと。しかし、三河の山奥で育った私にはいちいち感心する雄大な風景ばかりなのである。

 全くの偶然であるのだが、私たち日本人3人は、示し合わせたようにチャコールグレイのフリースジャケットを来ており、ネズミ色のあふれた車内は面白い雰囲気であった。ビルは、今日本ではネズミ色が流行っていると思ったに違いない。

 ビルは50歳をすこし越えたぐらいの雰囲気であり、夏場は釣りのガイド、冬場は公務員として土壌・河川管理の仕事に就いているとのこと。これもまた、うらやましいかぎりである。彼の「アルパイン-ハンティングサービス」は1986年に創立し、これまで多くのハンターやフィッシャーを案内してきたとのこと。私が彼のことを知ったのは、8年前に釣り専門の海外ツアー会社のパンフレットを見た時である。以来、長年にわたりニュージーランドの鱒釣りとウェストランドの原生林に憧れてきた。しかし、毎年ツアーのカタログは送ってもらうものの、予算・休暇・決心がつかないなどの諸事情により計画はボツになり続け、ついに今年、ようやく8年越しの夢がかなったのである。

 ポツポツとビルと話をしていると、あたりはにわかに暗くなり、大粒の雨がフロントガラスで音を立て始めた。前方の空には重い雲が垂れ込めている。

「ここで、今日雨が降るということは、5日間の釣りのうち、後半にはかなり良い条件となるのではないか?」

などと、これまた希望的観測に満ちた独り言をつぶやきつつ、100キロのスピードで車は西に向かって走り続けてゆく。

 空港から60kmほど走ると、73号線はいきなり急な峠道となった。ニュージーランドの道路は、見たところ、勾配や線形などが一定の規格に基づいて設計されていないようであり、良く言えば柔軟な方針で、悪く言えばアバウトに道路が造られているようである。幅員だけはきちんとゆとりのある2車線道路なのだが、地形に合わせて山なりに道路を通してあるので、きわめてタイミングやペースを保ちにくい。といって、日本のようにきちんとガードレールが整備されてもいないので、はるか眼下の谷底を見ながらビルの高速ドライブに付き合うのはなかなかスリリングである。対向車はビル以上にスピードをあげて走っており、出会い頭のカーブでのすれ違いは、これまでのどのフライトよりも緊張した。おまけに、対向車がカーブで膨らんでくるのを用心してビルは左の路肩一杯に寄せて走っているのでビクビクものである。

 峠を越えると、荒涼とした原野が広がる。この峠はポーターズパスという峠であることは後で地図をみてわかったのだが、私は最初、これが東西の分水嶺となるアーサーズパスだとばかり信じ込んでおり、えらい早く西海岸側に出るなあと思っていたのである。

 遠くの峰には、とても奇妙な形の岩が連なっており、訊くと、石灰岩だとのこと。写真を撮るとおもしろい風景だと思う。緩やかな下りが続いたあと、再び道路が険しくなる。ジェットコースターのようにアップダウンと左右のカーブをこなすビルの赤いテラノは、まるでジェットエンジンで飛んでいるようである。今回の旅のうち、第4番目のフライトである。

「この車には、フライトナンバーがあるんじゃないですか?」

 というと、ビルはにやりと笑ってまたアクセルを踏み込んでゆく。

 前後左右の揺動が下腹部に大きなダメージを与え続け、もうこれ以上我慢できない!と思ったところで車はアーサーズパスにある公衆トイレにたどり着いた。ほっと一息ついてみんなでひと休みしていると、吐く息が白くなっており、雲間に見える山の頂には残雪が白く光っている。サザーンアルプスである。

 近くには、アーサーズパス駅があり、野草の花が美しく咲いていた。クライストチャーチからこの峠を抜けて西海岸に至る鉄道路線は、風光明媚で人気の高い路線だそうである。しばしの休憩の後、道路沿いに数件の売店やモーテル、ビジターセンターなどの並ぶアーサーズパスを後にする。

 道路脇に建つ記念碑(たぶん、アーサーズパスにゆかりの人物か出来事の碑だと思う)を通り過ぎると、いきなり道路は急な下り坂になり、日光いろは坂のようになる。エンジンブレーキをめいっぱい効かせて下ってゆくと、無数の滝が周囲の山肌からはるか下の谷川まで流れ落ちている。その谷川(Otira River)は、白い奔流と化し、車の窓越しにも轟音が聞こえるようである。ここ数日の雨量の多さが気になってくる。これでは釣りにならないかもしれないと思う。

 峠道を抜け平野に出たところで道は73号線から右に分かれ、ポエルア湖(Lake Poerua)を左に見ながら車は走る。ビルが、もうすぐだぞ、と言う。しばらく走って坂を登ったところでブルナー湖(Lake Burner)に面したモアナの町に着く。こじんまりとしたロッジの屋根付きガレージに車が止まる。時刻は、午後9時過ぎ。ここが、ビルのロッジである。やれやれ、やっと着いた。まるまる24時間あまりの長旅であった。


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