エッセイ

メルビルパークの思い出

 ハミルトン市外の中心部、ステートハイウェイ1号線のそばに、メルビルパークはある。あまり大きな公園ではないが、きれいな芝生とローラースケート場、スケートボード用の大きなボウル、ランプ、ステップなどが整備されていて、公園としては充実している。土曜・日曜の昼間ともなれば、小さな子供からティーンエイジャーまで大勢の子供達で賑わうのである。この公園のハイライトはなんと言ってもスケートボード用にデザインされたコンクリート製の大ボウルである。これは、地面に大きな穴を掘り、周囲を滑らかなコンクリートで仕上げ、一方向から降りられるスロープを付けたものである。直径は7~8m、深さは5mほどもあったろうか。一方、ランプやステップ、ハーフパイプなどは、NHK衛星テレビの「Xゲーム」でおなじみのローラースケートパークやBMXパークのごく小規模なものが整備されている。

 大きな少年達はめいめい自転車やスケートボードでこのボウル穴に乗り込み、ぐるぐると周囲を旋回するのである。まだこんな荒業を出来ない小さな子供達は、外縁上にちょこんと腰を下ろして、センパイ方の演技を見学することとなる。ここでは、日本の公園で久しく見られなくなった、異年齢の子供達の集団が出来ており、年長の子供達による暗黙の統率の元に、一人一人の子供達が遊んでいる。ボウルに滑り込むタイミング、順番など、ガキ大将と思われる少年の指示どおりに整然と「競技」が進行してゆくのである。

 初めてこの公園を訪れた時に、これらの施設の整備状況と子供達の明るい様子にいたく感動し、いつか自分もマウンテンバイクを持ってこようと思ったのである。とある初夏の日曜日、はるばる自宅から自転車でこの公園に駆けつけ、年甲斐もなく自分もボウルに挑戦する事にした。スロープがかなり急なので最初は怖くて乗ったままは突入できず、バイクを引っ張って降りて中をぐるぐる走っただけだったが、周囲の子供達の大嘲笑が恥ずかしかったのと、なんとか度胸がついたような気がしたので思い切って乗ったまま突入してほぼ90度近い円周部をぐるりと数周した。それからは慣れて来たので、ガキ大将と目される少年の指示に従って何回か走った。ボウルだけでなく、ステップやランプの方へ行って遊んでみた。白いコンクリートの輝くランプをジャンプすると、自分の背中に羽根が生えたような気がした。デジカメを持ってこなかったのが本当に悔やまれた。それほどこの公園は、すばらしい雰囲気だったのである。

 しばらく遊んで疲れたので、木陰のベンチで休んでいると中学生くらいのマオリの女の子達が4人、楽しそうにおしゃべりをしながら近づいてきた。

「ハーイ」

「ハーイ」

 いささか珍しい日本人中年とマオリの少女達の会話が始まり、私は、調子に乗って彼女らにマウンテンバイクでウィリーやジャックナイフを披露してあげた。これがバカ受けで、拍手喝采だったので、とっておきのかくし芸を見せてあげる事にした。これはロアルド・ダール氏の「ヘンリーシュガーのわくわくする話」という短編に出てくるエピソードなのだが、目隠しをして自転車に乗るというものである。自分でもできるかどうかやってみるのは初めてだったので、いささか心配であったが、バンダナでしっかり目隠しをして、ちゃんと目が隠されているかどうか女の子の一人に確認をしてもらった。目隠しのまま、いざ、自転車を漕ぎ出してみると最初は少し戸惑ったが、あとはもう普通どおりに自転車に乗れた。真っ暗闇の中、あまり自転車を傾けさえしなければ、よろよろと方向が定まらなくともなんとか走れるのである。さらに、かなり広い芝生広場だったので、なにかにぶつかる心配はなく、あの短編の主人公のように自由自在に走り回る事が出来た。彼女らが件の短編を読んでいたかどうかは知るよしもないが、みんな立ち上がって拍手してくれて、面目躍如であった。

 この公園は、タウポやロトルアからオークランドに向かうステートハイウェイ1号線の信号近くにあり、車窓から公園の全容が見渡せる。駐車場も有るので、釣りの帰りに時間があったら寄って見ていって損は無いと思う。

 いまでも目をつぶると、あの日の公園の白いコンクリートと緑の芝生、少年達の大嘲笑、少女達のあどけない大笑いが浮かんでくる。私の心の中でメルビルパークはいつまでもあの夏の午後のまま、にぎわっているのだ。

メルビルパークの地図


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