父の釣り口伝

アメノウオ一代 その12  西園目の川の太公望

 おう、銭もらったのはまんだいっぺんある!公団へ入ってからだ。

 西園目の川がなあ、あれも田んぼのぐろまわりを流れておるらぁ、あそこへ行ったらよう、ええかげんな歳のおっさんがよう、どうだ3間もあるような竿をよう、川からはるか離れた田んぼのなかから竿出してよう、川なんか見えせんだよ、長ーい竿でこうやって釣っておるわけよ。

「なんだあのおっさんは?」

と思って近づいた。それからぐるーっと後ろ回って上流へ行こうとしたら

「こんにちわ」

って言うもんでおれも

「こんちわ」

って言って。あの時分でなあ、60歳ぐらい、いまの俺よりちょっと若いぐらいのおっさんだったよ。

「なんだね?」

「おたくもヤマメ釣りですか?」

「そうだよ。」

「釣れましたか?」

ああ、こりゃどうも言葉が東京の人間だなあ、と思って、

「うん、釣れたけど、おじさんどっから来ただね?」

「東京から来た。」

「ふーん、まぁえらいところからきたねえ!」

「こっちの川は釣れるって本で読んできました。」

で、ゆうべは大崎屋へ泊まったということでよう、今日この川が釣りやすいと聞いたので来ましたっちゅうことだったわい。 で俺が、

「釣れんかね?」

って聞いたら、

「釣れん。」

と言う。それから俺言っただい。

「おじさんそりゃ考えてごらんよ。」

「どうして?」

「そんな3間もある長い竿でよう、川が見えん場所でこんなして竿伸ばしておったってよっぽどアタリがこにゃあわかりゃへんでよう、まあそんなもなぁ手元の竿を抜いてしまって、半分にしてそうしてやってごらん。」

「そんなことすりゃ魚が逃げてしまうじゃないですか」

そう言うもんでよう、どうもこの人は言うことがおかしいと思っとったら、その人は東京の在のなんとかいう所で、銭をはらうとアメノウオを放してくれる川で釣っておるらしいだ。そんなものすぐ喰いつくわなあ。そんなもんじゃあ釣れんって言っただ、それで、

「それじゃあんたが釣っておる所へ俺が入って悪いけども、釣った魚はあんたにやるでいいで、俺の釣るところをあんた見ておりん。(見ていなさい)」

 ちゅうわけだ。それから俺がこっちの田んぼを石垣の岸へそーっとひっついていって見るとアメがおるだい、見えとるだもんで。それからミミズ付けてピッチョッパッと釣って、

「おじさん、これ!こういうふうにやらにゃあだめだ。」

「ふーん!!」

なんて感心しちゃってよう、

「ほんとうに天然の魚はずるいですなぁ!」(笑)

なんて言っとるでいかんわ。それから言うことがいいじゃん。

「わしもこれからそうやってまねしてやってみますが、とてもおたくみたいに釣る自信が無いので、わしは今日釣ってそれから帰るのだけど1尾も釣ってこないじゃあ家内の手前体裁が悪いで、おたくの釣っておる魚を分けてください。」

って言うもんで、それもそうだと思って篭一杯よう、何尾おったか知らんよ、その人のクーラーへあけてやってさ、

「そいじゃあまあ、おじさんがんばりな、俺は上へ行くで」

って言って歩き出したら、おーいおいって言って追ってきてよう、ポケットに何か押し込むらぁ、

「何だの?」

って聞いたら

「お礼です、お礼。」

「いいよ、そんなお礼なんか、いいよ!」

「いいから、いいから。」

って千円くれた。(笑)

 あの時分の千円は貴重品だったよ。

--東京の人は仕掛けや釣りの恰好がよかったら。

 うーん、そりゃ釣りの雑誌から抜け出てきたような恰好でなあ、だけど釣れんって言う。そりゃ釣れんよあれじゃあ。(笑)

 あんな3メートルしかない川で3間もあるような竿をはるかかなたからこんなして出しとるだもんで。


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