父の釣り口伝

アユ釣りの夏に その2  覚えたての頃

 そうしておったわけだが、俺は名古屋へ行っておったわけなんだけども、俺の下の勝が生まれる、そのうちにはもう進が生まれるってわけで貧乏人の子沢山だ、それで家が困るっていうわけで古戸の中原のおばあちゃんの実家へ預けられたわけだ。

 そうしておると当時は貧乏だもんだで、川を買ってアユを釣るなんていうのは数えるぐらいしかおりゃへんわけだ、はっきり言って。そうするとお医者さんは金がある。

--あるね。

 そのお医者さんの白川っていうおじさんは、俺のお袋の養父だったわけだ。で俺がしょっちゅう行くと、おじさんがアユ釣りに行くで付いて来いっていうわけだ。で俺はアユをみんなに1尾ぐらいづつもらってきては焼いて食わせる。で、必然的におれも覚えてくるわけだ。

 それで、人の川へ行くわけにはいきゃあせんもんで、こっからここは俺の川だ、なんて決まってるもんで。それでお医者様の川へ行くぶんには白川のおじさん怒りゃへんもんで、俺行って釣るっていうわけだ。でも最初は釣れやへんそんなもんは、だけどだんだん覚えてきて釣るようになって。そのうちに俺も大きくなって学校上がる時分になって、親父も学校だけは名古屋で出したいでっていうことで名古屋行ったんだけど、こっちの方がいいもんだで休みだっていうとこっちへ来ちゃう。

 それで、何年生ぐらいだったかなぁ、親父も夏休みには来ちゃあこっちで川買うわけだ。当時中原の前が、今でも覚えとる5円、だいぶ長い間。それで中原の前は降りていく道があるら、ちょうどいいもんだい親父が銭出しちゃあ買うわけだ。それで親父はお盆くらいしか来りゃあせんもんだい俺や長兄ぃが釣るっていうわけだだが。そうして釣っておったところが、仕掛けだ。

 昔はねぇ、がいろ股っていう仕掛けだっただ。がいろってはどういうことかっていうとカエル股だ。こういうふうに輪っかがあってこうなってこれに針が付いて、それにオトリが付く。そのここん所だ、こうなってこうなったところが普通に縛ったぶんじゃあこの輪っかのほうへ行ってしまうもんで、そこはなあ、ある特殊な縛り方があるだ。それが俺子どもだもんでわからんだ。

 で、縛っておくれってとなりの幸兄ィっていうおじさんに言えばそんなのめんどかしい自分で縛れってこうこきゃあがる。やってみりゃあうまくいかん。そこだわい、問題は。俺はホラ吹くわけじゃねえが、アユがすれ違って掛かるもんなら何も股になっとらんだって一本でも掛かるわけだと俺はこう考えただ。当時小学校2年生か3年生だよ。

 ほれだもんでおれは馬の尻尾を、ここがミソなんだよなあの縛り方は。それで昔の針は平打ちっていって、チモトが無いから抜けちゃうんだよ、普通の縛り方じゃあ。だからこれを当ててきて、普通の糸を。これをほかの糸で縛るわけだよ。な、こういう風に。だもんでおれは考えただい、べつに馬の尻尾でなくてもいいはずだと考えただ。だからテングスで俺はこうやってきて、取り替えられるようにここを一回縛って、こういうもの作って、これへどうせこう巻かんならんだもんで、ここへこうやったわけだ、針をな。自分で作っただいこれ、ほいで川へ持っていってやりましょうって言ったら今でも覚えとる。幸一兄ィっていうおじさんが川へやって来たよ。

「やい、肇、おまえも来たか。」

「うん、これからやるだ。」

そしたら幸一兄ィがこうやって見とるわけだ。

「なんだそりゃァ」

「なんだそりゃっていったって、おじさんこれを縛ってくれんだもんで、おれはこうして縛ったよ。」

「ばっかやろう、そんなことして釣れるわけはねえ!」そう言ってそのおじさんが怒るわけだ。

「それだっておじさん、すれ違ったときに掛かるもんならこれだってよう一本しか掛からんし、がいろ股だって一本だ。極端なこと言えば一本だっていいはずだ!」って理屈をこねたわけだ。

「とろいことをこけ!」

っておじさんは言うわけだ。 「いいよ、おじさん。おれはこれでやるで」

 って言って、オトリを付けてさ、今でもああいうことははっきり覚えとるな。俺の方が先に釣ってしまっただい!

 オトリ付けてこうやって入れたらはいググッと来て。キュッと引いて。そうしたらおじさん、じーっとこっちを見とるわけだ。(笑)

 オトリが変わったら、また入れる、また掛かる。幸一兄ィんところは中原の家の下りの、家が買っておる下りを買っとるわけだ。境をはさんでお互い見えるわけだ。おじさんおもしろくないわなぁ。(笑)

 そりゃあ、釣れるわや、だれも釣っちゃあいねえもん。自分しか釣りゃあせんだもんで、バタバタ釣ってよう。あのおじいもそれだが偉かったぞう。そのうちに俺の所へ来てよう、

「肇よ。」

っていうもんで 「なんだあ」

って言ったら、

「ちょっとそれ見せよ。」

って言っておれの仕掛けを見とる。

「ふーん、なるほどなあ。」

「そりゃ、おじさん、こんなとろくさいことやっとるよりはいい。」

って言ってやった。それでなあ、おれおじさんに言っただい。

「その仕掛けはねえ、流れによって二本の針が絡まってしまうだよ。それだで掛かりっこねえじゃねえか。それだでおれは、針を縛るときに長さを変えてある。」おじさん

 とこう言ったんだ。そうするとおじさんが、

「よし、わかった。」

 と言って、明くる日からおじさん、この仕掛け作ってくるでいかんわなぁ。(笑)

 それだから今でもね、釣り道具屋へいくとこれ売っておるけども、これはおれが小学校二年生か三年生ン時に自分で作っただぞっていっつもそう言うだい。それだからねえ、魚釣りって言うのはやっぱり研究しなきゃいかん。


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