父の釣り口伝

アユ釣りの夏に その15 おれに言わせりゃ アユ編  アユ釣りの秘訣について

 それでこんどは面白い話があって、ここらへんは非常にアユ釣るには環境がいいんだよ。川は小さい、竿は短くてもいい、落差があってポイントは多い。

 ところがここらへんの野郎ン達がちょっと天狗になって木曽川だなんだって行くとさいがどーでかい川で胸まで水に入ってこうやらんならん、1尾も釣りえんでみな逃げてくるんだよな。

 だからねえ、ここらへんの川はアユ釣るには非常にいい川だよ。それがなあ、嘆かわしいことに、近い将来アユ釣りはできんくなるよ。東栄町も下水道やるなんていっとるら、川角に処理場作って流すなんて。

 お前仮にその水が本当に検査して飲めるほどきれいな水を流してもだよ、そこにおるアユを釣ってきて焼いて食わぁっちゅう物好きはおらんぞ、ホントの話がなあ。それでアユもダメ。こっちの方も渇水だそれなんだっていうし、田口は田口でいずれ設楽ダムだって出来るだらぁ。まあこの界隈じゃあアユは釣れんようになるに。情けないことだけども。

 だから、アユ釣りはねえ、俺に言わせりゃ決して難しい釣りではない。そりゃ百も二百も釣るって言えばテレビに出る衆みたいにさあ、手網なしでオトを換えるなんちゅう上手にならにゃあいかんかしらんが、ただ釣って遊ぶくらいのことだったらあんなもん誰でも釣れる。いかにオトリを弱らかせんように泳がせるかっちゅうだけだ。

--それは何かコツのようなものはあるのかん?

 アユの行きたいように泳がせりゃいい。あそこにおりそうだって引っ張るらみんな、あれがいかんだ。俺ようそう言ってやるだ素人の衆に。お前鼻に環付けられて引っ張られたらどんな気がするって。そうだらぁ?

 でそういう衆に教えてやるだよ、おまえなあ嘘だと思ったら今から川原の石に竿を立ててよう、30分辛抱して見とれ、きっと釣れるに。アユは好きな方へ泳いでいく、そうすると石に付いておる奴もさ、あっこいつは来たな!っと思ってけんかするわけだよ。こんなして不自由なアユをずり回るもんだい、一方のアユだってけんかする気にならんわ。水カガミで見とってみい、ようわかるに。元気のいいオトが来ればなあこれは俺の縄張り取られると思うもんだいすぐけんかおっぱじめるけど、弱っておるオト来たって知らん顔しとるで。うん。

 だからぁ、いかにそのアユの気持ちになって動かしてやるかっちゅうことなんだよ。だから底へ引っかけん程度に持っておればいいの。それをあそこにおりそうだであっちへやるだこっちへやるだって、なあそうだらぁ、鼻環付けられて引きずり回されたらどんな気がする?ほんと。あんなもなぁ本にはいろいろ書いてあるけども俺に言わせりゃ難しいことはない。いかに自由に泳がせてやって、泳いでいくオトが縄張りのアユに接近するかっていうことだけだよ。

--取り込みは?

 取り込みか、あわてにゃいいよあんなもなぁ。ちゃっと上げてしまわぁとか格好良く上げようなんと思うから間違う。じーっと上げてきてここまで来たときに空気吸わせりゃあ弱るら、そこでひょっとすくえばいい。

 で、あんなさぁ、空中で受けるなんちゅうことこの頃やいやい言うけども、あんなもなぁおら子どもん時からそうだった。(笑)

 町の衆みたいにさ、竿より糸が長いなんちゅうことはないから、おら達は竿と糸が一緒の長さだから岩の上ででも釣っておればどうせんだってこうやって空中で受けるよりしょうがないだもんで。なあ。

 そうやってやっていくと経験で、あんまり早くから上げるとあっちへ行っちゃったこっちへ行っちゃった、そのうちに手網に当たって落ちたりするからずーっと持ってきてここでスッと上げてひょいっと受ける。そりゃあしょうがねえだ口じゃあねえ経験で覚えるだもんで。ほうだよ。

 あんなもんねぇけっきょくそのアユの気持ちになってやりゃあいいだよ。ホントの話が。アユ釣りはそこらのもんだ、俺の言いたいところは。

 この頃はねぇ、あんまりにもしゃらべんたいこと(しゃらくさいこと)言い過ぎる。針は何号だのそれあれだのって。そんなもんおら今でもアユ釣るって言えば針 は8号半だもん。そんなでかい針使う!ってみんな言うら、小さいよりゃあでかい方が掛かったときははずれん。あんな小さい針が掛かってみたってちょっと魚が大きけりゃ切れちゃうだもんで。おら大きな針でプスッとくすがりゃあ絶対だもんで。

--昔のアユ釣り針なんていくらぐらいしとったの。

 あの時分ねぇ.....おら子どもン時でぇ、幸一兄達に教えてもらう時分に、雑魚釣り針が一銭で八本ぐらいでねぇ、アユ釣り針は一銭で三、四本だったなあ。

--高いなあ。

 高かったよ。それで型だってひといろ。ここらへんにあった型は。いわゆる狐型っていうやつ。そのうちにねえ、矢島っちゅうのが入ってきて、ここらへんでアユ釣り針って言うと矢島か狐しか無かった。今みたいに入間型だそれ何型だっていってはそんなもん全然無かった。

 それとあとなぁ、アユ釣りでなあ、アタリがあるっていうことをよく言うが、人に言わせるとなあ、アユがくわえて引っ張る訳でもないのにアタリがあるなんてそんなバカなこと言うなって人があるんだが、ちゃんとアタリがあるだ。

 アユとオトリがすれ違ったときに、もう少しで掛かりそうになってカクン、カクッとするときがあるだ。それがわかればしめたもんだよ。ここにはおるってなもんで、その石の回りをオトリが離れないように加減しておるとじきに掛かるだが。

 それがわからんとオトリがアユに追われて違う方へ泳いでいってもわからずにアユのおらんところでいい気になってずーっと釣っておるハメになってしまう。その感触はねえ、なんて言うのかなあ、カクン、カクンていうようなアタリだ、それがハリがくすがりそうになってくすがらん時のあたりだ。それがわかるようになればたいしたもんだ。

 それからもう一つアユ釣りで大事なことは、出来る限り川に入ってはいかん。

 で、入るにしても手前の石から釣る、その次のやつを釣るっていう風にして順次入って行かなきゃ。

 素人の衆はなんか向こうの深いところに居そうな気がするもんでダバダバっと入ってしまう。まあアメ釣りでも同じことが言えるけど、どうしても川へ入りたいだ。

 そうじゃなくて、じわり・じわりと前へ出て行きさえすりゃあ別に今の衆にみたいに十二メートルもある竿を振り回さんだって十分釣れるだよ。

 そりゃ、川の条件がそういうふうになっておればしょうがねえが、そうでもないのに長い竿を振り回しておるやつは、まず下手だと思って間違いねえなあ。どうしても下手なやつほど長い竿を使いたがる。お前剣道やっておったが、剣術もそうじゃあねえのか?自分で力もねえのに長い竹刀を振り回したんじゃねえか?

--俺らの頃は竹刀の長さが決まっておったからなあ。

 昔、合い口って言って九寸五分だから約三十センチか、その短刀を持ったある人がおったわけだが、その三十センチの短刀で二尺三寸の刀を振り回すやつがかなわなかったっていう話があるわけだがなあ。


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