父の釣り口伝

肇の魚釣り初め その11  宗匠頭巾のおじいさん

 それで、おふくろがフナ釣って来い料理するでっていう、おれが釣りに行く、そいで小川行って、釣って、3時頃だったなぁ帰ってきたら、テクテクとやってきたら、その例の茶店だわい、進の小僧が

「キャンデー!」

 と始めたわけだ。それでおれは銭をもらって持っとるだけど、やつに好きに買わせたらたちまち足らなくなるらぁ、ほいだもんだで、まず、

「キャンデー一本だけだぞ」

 って言って勝と進を連れてその茶店に入ったら、人には親切にせにゃぁいかんぞ、おれいまでもあのおじいさんの顔を思い出す。水戸黄門がよくテレビに出るらぁ、まさにあの通りのおじいさんでなぁ、白い髭を生やしてなぁ、お前宗匠頭巾ていうもの知らん?トルコ帽みたいな帽子でなぁあれは江戸時代から宗匠頭巾ていう。それをかぶってなぁ、黒い羽織を着て、白い着物を着て杖をこう持ったおじいさんがなぁ水戸黄門の通りなんだわ。

 そのおじいさんが黙っておれを見とっただなぁ、進の小僧そこまではキャンデーだっただが、店に入ったら、進も学校行っとるだもんで、読めるだ、アイスコーヒーと書いてある。それを買ってくりょうとこうきたわけだ。ところがアイスコーヒーは一杯五銭じゃん、おれは十銭しか持ってねぇだもんで。買えりゃせんそんなもの、三人分は。で、アイスコーヒーはやめてキャンデーにしろとおれが言う、そうすると進はなんでもあれだとこいてはいグズをこくあの体勢になってきたわけだ。でしょんねぇもんだいさぁ、まぁそいじゃぁ兄ちゃんの分はやめて、勝と進と一杯ずつ買ってやるで、そのかわりお金無いから一杯ずつだぞって言っておれはキャンデーも食わずにその十銭を五銭ずつ飲ませただ。そうしたらおじいさんが見ておって、

「坊、坊」

「なんだぁ」

「坊はどっから来ただ?」

「こういうわけで魚釣りに来ただ。」

「親父は?」

「おらん」

「危ないじゃないか」

 って言うから、実は三本木のこういう川へ行って来たんで、深くはないし、昔から来ておって、危なくはない、って言った。そうしたらそのおじいさんが、

「ほうか、ほうか、それじゃあいいだが、どうだ釣れたか?」

って言うもんで、

「うん、たくさん釣った」

「たくさん釣ったぁ?、そいじゃぁ見せろ」

「うーんこりゃたくさん釣った。おまえ上手だなぁ」

なんて言ってよ、

「おまえはえらい!」

て言うんだそのおじさんが、

「弟たちになぁ買ってやって自分で飲まずにえらいで、お前の分を買ってやる」

って言うわけだ。おれ今でも忘れんよあのおじいさん。

--なるほどねぇ


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