父の釣り口伝

腕白たちの黄金時代 その3  ガキ大将といっしょに

 雑魚釣りじゃあなぁ、あのお蚕も餌にしてよう釣れたで。それをなあ、お蚕しまいにゃあこんなにでかくなるだ。そんなやつを針に付けてボッチョン!なんて石をほかったほど音がするだがしばらくするとアカブトのこんなでかいやつがガクンッなんて喰いつくんだ、うれしくてなあ。

 今ならビデオがあってきれいに撮っておけるだが、あの川原に掘った池にアカブトばっかり二十尾も三十尾も泳いどるのは壮観だったぜ、ほんとに。おれは2尾釣った、おれは十尾釣ったなんて言って。本当に旧き良き時代だったなあ。

 とにかくさぁ、あの時分だっていじめだっていろいろあったけども今みたいな陰湿なそういういじめは無かったよ。おんしゃぁとろくさいだとか戦争ごっこでいっつも捕虜にばっかなるだとかそういうことを言っていじめるだけのもんで。

 それでその子と遊んでやらんかっていえばそうじゃないいっしょに遊んでやるしさ。それからあの、今言う雑魚釣りでもそうだ、べつにあの子が金持ちの子だとかこの子は貧乏な子だとかそんなことは言わずに、こんだぁおれが銭あるでテングス買うわそれ分けるかなんて言ってみんな平等に分けてさぁ、そうして家から木綿糸盗んできて先っぽだけテングス付けて。

 どうも昔の子の方がそういう点は良かったし、それからガキ大将っていうやつがおってさ、へたにだれかいじめりゃあガキ大将がなんだぁおまえはって注意するもんだから、社会教育の面から言ってもああいうガキ大将って言うのは、おれはいいことだったと思うよ。

 それから川へ行ってもさ、いろいろ教えてくれるだもんで。

「やい、お前ん達はまんだ泳げやせんでこの淵へ一人で来ちゃあいかんぞ」

 だとかさ、

「竿を作るときに、出刃が無けりゃあ枝が出ておるところをこうやって小さい石でちょんちょんとたたくとポキッと折れるからそれで竿を作ればいい」

 とかなぁ。みんなそうやって教えてもらって覚えていくわけだよ。

--お父ちゃんの頃のガキ大将って言えば誰だったいね?

 古戸のあそこらへん界隈でか?最初はなあ、幸一兄ィんところのヤスさんっていう子。あの人はお巡りさんになったけどなあ、あの人図体もでかいしなあ、なかなか威張っとった。(笑)

 それからヤスさん達が学校出て就職して行ってしまう、その後は、学校の裏に「おくや」っていう家があって、そこのカツヨシっていう子がガキ大将だったな。それからおれ達の代になってきてノブヨシくん、あの子がガキ大将だった。

 おれは体も弱いし当然いじめられる運命にあったわけだが、口は達者だしテングス買う時には軍資金を出すもんで全然いじめられなんだな。(笑)

 あの時分いじめられたのが、よっちゃんって言うんだが、自分のことをよっちゃんて言えないんだな、ロレが回らんもんだい。あの子がよっちゃんて言うと

「どっちゃん」

って聞こえるんだな、それでみんな「どっちゃん、どっちゃん」て呼んどった。

 そのどっちゃんがのろまくさいもんでなあ、なんしょ戦争ごっこになるといつも捕虜になっちゃうわけだよ。それでさぁ、古戸の学校から奥の方と、町通りの辺りの子どもはいつも仲が悪いわけだよ。(笑)

 子どもってもんは不思議に部落根性があって仲が悪い。それだもんでみんな町の方へお使いに行って来いって大人が言っても、震っちゃって(怖がって)行きゃあへんだよ、町通りの子にいじめられるもんで。それで戦争ごっこをやると、きっとどっちゃんが捕虜になって、それを助けに行かにゃあしょんねえっていうわけで。

 そうかと思えばおれん達はしわいもんだい(わんぱくだから)、あれは長兄ィがガキ大将の頃だい、浅井の何とか言う小僧を捕虜にしてよう、縄で縛ってだよ(笑)、家の前の小屋へ押し込んで錠を掛けちゃった。(笑)

 そうしたらよう、野郎縄をほどいて脱走しそうになったっていうわけで、このヨタ小僧めっていってまた捕まえて今度はこの天井ぐらいある「六」って言って味噌を寝かす六石も入る大きな桶の中に入れて梯子を取っちゃった。まあ出れんわい、どうしたって。(笑)

 そいでおれんとうは戦争ごっこ終わっちゃって今度は水浴びに行かめえかっていうわけで川へ遊びに行ったんだ。それで夕方になって家に帰ってきて、夏だもんで日が長いだいなぁ七時頃になって、囲炉裏で飯を食っておった。

 そうしたら浅井の家のおばあさんがさ、

「今晩は」

なんて杖をついて来たんだわ。おらもう浅井の小僧のことはすっかり忘れておった。

「おい、おたきおばあ、おれんとこの孫を知らんかのう?」

 なんて聞いたさ、そこでおれが気が付いて、長兄ィを突っついたら長兄ィが

「なんだァ?」

 なんて聞き返す。そのうちに長兄ィも気が付いて青くなっちゃってさ、飯食うのやめて台所の方からそうっと抜け出して戻ってきてさあ、

「おばあ、おれその子の居所を知っとる」

「早よ言え!まあはい日が暮れるぞ!」

「茶部屋に居る」

「何だって?」

--茶部屋って言ったのかん?

 おう、お茶を揉む部屋だったんだ。それからおばあが提灯点けてきてさ、長兄ィが茶部屋の角に立っておってさ、

「長、お前がやっただか?どこにおるだ?、おりゃへんじゃないか!」

「六の中へ入れてある」

 それからおばあが梯子を掛けて提灯で照らしてみたらさ、おとましい泣きくたびれて中で寝入っておった。(笑)

 おれはあの子に大人になってから出会ったことがない、どうしたのかなあ古戸を出ていったのかなあ?何とか言う名前の子だったがなあ。

 それから、浅井のおばあがその子を連れてってから長兄ィがおたきおばあにこっぴどく怒られてよう、

「明日おれと一緒に謝りに行くだ!」

 なんて言って、笑っちゃうじゃねえか。それだってさあ、今みたいにあの子は不良少年だいじめっ子だなんて言われりゃせんで、

「どうもどうも良かった良かったケガさえしにゃあいいだわいの」

なんて風だったぜ昔は。(笑)

 こっちで捕虜になるのは「どっちゃん」、むこうで捕虜になるのはその浅井の子、もう決まっておるんだ。要領が悪いもんで追っかけられるとじきに捕まっちゃうんだわ。

 そうかと思えばいたずらしたなぁ、ある金持ちの家があって、そこのおじいさんがおれ達が悪さするもんだいその家のそばに行っただけで、

「小僧ん達悪さするんじゃねえぞ!」

 なんていたずらしてもいないうちから怒るんだわ。

「くそったれうるさいじじいだ」

なんてみんなで言っておったら長兄ィが言うだい、

「やい肇、田圃行ってカエル捕って来い」

「なんでぇ?」

「あのじじい聞くところによるとカエルが嫌いだって言うでカエルをしゃっつけてやらめえか(カエルを体にひっつけてやろう)」

 という話になったんだ。

「おれはやだよう」

「まあ何でもいいでカエル捕って来い!」

 しょうがないもんでカエルを捕って腰篭に入れてきたんだ。そうしたらちょうどそのおじいさんが田んぼに行ってそこのおばあさんもどっかへ行ったんだ。

 すると長兄ィが「よし、このいきに!」

 って言って、昔はどこの家にも水瓶ってあったら、水道は無いもんで。その水ガメの中へカエルを五、6尾入れて蓋をしておいた。そうしたらおじいが三時頃田んぼから帰ってきて、柄杓で水を飲もうと思ったら水ガメからカエルが飛んで出ておじい腰を抜かしてしまったんだ。(笑)みんなざまあみろなんて言って。

 そうかと思えばその時分にヒツジをその家で買ってきてなあ、珍しい。増やすんだなんて言ってつがいで買ってきて川の向こうへ今で言う牧場を作ってさぁ、柵をしてヒツジがおるわけだ。そこでまたおれがいらんことを言うだなぁ、名古屋からしゃれくせえこと聞いてくるだらぁ。近所の小僧たちに、

「やい、あれってなにするもんだか知っとるか?」

「知らん」

「ヤギによう似とるじゃねえか」

なんて言っとるんだ、田舎の小僧たちはヒツジ知りゃあへんもんで。(笑)

「あれはヤギじゃねえだぞ」

「ほーう」

「あれはヒツジって言うだぞ」

「ふーん」

「今から見に行かまいか」

「見に行くとまたじじいが怒るぞ」

「そんなのいいわ、案じゃあねぇ(案じることはない)」

そんなこと言っては見に行ったんだ、みんなで。

「ほんとだなあ、毛が長いじゃねえか、おかしなもんだなあ」

なんて言って見ていたんだ。そこでおれが、

「これ毛が長いけど、何にするのか知っとるかお前ら?」

「知らん」みんな知りゃあへんだ。

「このなあ、長い毛を採って、服になるだぞ」

って言うわけだ。それでおれはおばあちゃんが網物好きだったもんで毛糸の服を着ておるわけだ。

「毛糸って言えばなあ、あのヒツジの毛がこういう服になるだぞ」

「ほーう!」

「あんなもんがか」

「あの毛をなあ、ハサミで刈るだぞ」

 そうしたらなぁ、中っ原のみのりっていう小僧がなぁ、スタスタとハサミ持って行きゃがってよう、ヒツジの毛をええかげん刈りゃあがって(笑)

あん時にはみのりが怒られたわい。あそこのおじいが怒鳴り込んで来ただもんで。(笑)

そうしたらみのりが

「おら、服を作らぁと思っただもんで」(笑)

やつに罪は無いだい。そうしたら古戸のおばあが、

「誰がそんなこと言っただ?」

「肇が言った」

こんだぁおれがこっぴどく怒られた。(笑)

 いろんなことがあったぞ。(笑)


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