父の釣り口伝

腕白たちの黄金時代 その12  落雁おくれ!

 そうかと思えばお互い貧しいもんで、お菓子なんて子供がめったに喰えりゃせんだなぁ。

 そうしたらおばあがよう、お寺の上の方のなんとかいう家のお弔いに行ってなあ。むかしはどういうわけだか弔いの引き物にかならずっていいぐらい落雁(らくがん)が付いておった、蓮の花の形の。

 さあそうしておばあがそれを三つばかしもらってきたところが小僧達は大勢だし、しょうないもんで包丁でこれっぱかのかけらに切ってよう、二日ばかり落雁を食ったわけだ。そうしたら例の己典の小僧がなあ、

「おばあ、落雁おくれ」

「あらすかい(無いよ)、そんなもの」

「そんなこと言わずとおくれよ!」

「無い!」

「どうして?」

「どうしてったってもらってきたものみんなして二日もくれたじゃねぇか、もうあらすけぇ」

「そうか」

そうしたら少したってから、また己典がなあ、

「おばあ、どうしてこないだ落雁もらって来ただ?」

「そりゃあそこの家のおじいが亡くなったもんで弔いでもらって来ただい」

 それで、その場所には囲炉裏があって、長四郎おじいっていうおじいさんがここに座っておるだいなぁ。でおばあはそっちにおる、俺ん達はこのへんにおっただ。そうしたらまた己典がおばあに、

「それじゃあおじいが死んで弔いになればまた落雁あるだかい?」

「そうだよ」

「うちのおじいも早く死なんかなあ」(笑)

 さすがのおとなしい長四郎おじいも、

「このばか小僧!言うに事欠いて俺を殺す気になってけつかる!」

そう言って怒ってなあ。(笑)

「この小僧!」

 なんておじいが立った頃にはもう小僧どっかへ逃げてっておりゃあせん。(笑)

 それがさあ、えらい(かなりの)おじいさんでさぁ、はい腰が曲がりかけてよう、よぼよぼしとったような記憶があるだけど、今の俺より若くて死んだだでな。昔の人は年をくっておったぞ。六十三で死んだだもんで。俺ははい六十五になる。ほんど、腰が曲がったようなおじいだったぜ。

 もっとも今幼稚園ぐらいの子供が俺らを見ればえらいおじいさんだと思うだろうけどなぁ。(笑)

 それだっておらまだ腰は曲がっておらんし、子供を追っかけようたってまだまだ走れると思うけど。ほんと。

 あの己典っていう小僧は一風変わっておりゃがって、よう怒られたもんだ。

 それだもんで昔の子供はさあ、ある面じゃあ今の子供よりはるかに幸せだったと思うよ。たとえばさあ、楽しみがあったわい、おお?こんだぁ正月が来たらいい服を買ってやるでとかなぁ、今から見ればおかしな話だけども、白いご飯を腹一杯食ってさ、餅を食って。その餅も砂糖つけて食えるなんてなぁ。

 ほんとそうだっただもんで。普段は餅をついたって砂糖なんかくれりゃあせんもんで。たまり付けて喰うだけだもん。砂糖なんか買えんだもんで、ほんとに。

 そりゃあねぇ、とにかくお米ばっかのご飯なんて古戸じゅう探しても一軒もそんなもの喰っておる家は無かったよ。まずどうだ、米が五分に麦が五分ぐらい、いい家で。もっと貧しい家に行けばお前、米が二で、麦が八なり、稗が八なりだわい。それで稗飯炊きではバサバサするっていうんで、大根入れたり、ドラマのおしんちゃんに出たらぁ、ジャガイモ入れたりなあ。そうして食べるだい。

 そりゃ貧しかったに。そりゃ無理もないわい古戸の近所じゃあ耕地もないしなあ。一円の金を稼ぐのに大の男が三日かかるって言っただもんで。日当がだから三十三銭ちゅうことだい。

 そりゃあ今でも昔も変りゃあせんだ、古戸じゃあ勤めに行くところは製材所しか無いだもんで。後は山仕事かなんかだが。製材だって今と違って山から木が出せんもんで、あんまり木が動かなかったんだわなあ。それだもんで道端の木しか売れなんだだ。道端と川端。川端の木はよう、川へおっぷてて流して来ただもんで。

--流してきてどこで上げたの?

 そりゃまた上げやすいとこで上げただい。そういう専門の人がおってなあ、川をせき止めるだに。どうやって止めたか知らんけどなあ。それである程度水位が上がるらぁ、するとここにあった丸太が浮くわけだよ。

 そうすると俺達が見に行っておると危ないでどけって言われるんだ。そうしてどっかの場所で藤蔓をスタンと切るとそのせき止めたゲートがパァーッと流れて行くわけだ。そうするとまた水がおさまってしまうらあ、するとまたそこで堰を作っていくんだ、のんきなもんだよ。それで今みたいにビニールシートがあるわけでなし、どうやって水を止めたか記憶に無いだけど。川流しっていってそうやるだよ。

 それを三回か四回繰り返して、場のいい所まで持ってきて、みんなして鳶をくすげてずりあげて、そっから馬車で運ぶんだ。ちょっと水位を上げといちゃあ決壊させるだい。するとダァーッと流れるらぁ。  それでなあ、どうかするとトラックがよう、県道端に丸太を運びに来るだい。いやそれが珍しいだいなあ、村じゅうの子供がトラックのそばを離れりゃあせんだ。運転手が邪魔だとこいて怒りゃあがっちゃあさぁ。それが今じゃあどうだい、どこの家にも自動車あるだもんで。えらい世の中だぞ、そう思えば。


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