釣行日誌 故郷編

2009/2/4  立春、田んぼの中、黄金の輝き

 仕事が午前中に終わったので、帰宅途中にある川をのぞいてみた。草ぼうぼうの堤防道路に車を乗り入れると、上流に小さな堰があるのが見えた。

『お! あそこは良いポイントに違いない....』

 車を停め、帽子をかぶって立春の風の中に出る。まだ風は冷たい。釣りの下見をするのなら、スワンドライの赤いバッファロープレイドのクラッシャーハットなんかかぶってくるのじゃなかったと思いつつ堤防をいそいそと、しかし忍び足は忘れずに下ってゆく。

 堰の下流は少し深いトロ場になっており、いかにも大物が居着いていそうである。草むらの河川敷からブロック護岸の上に静かに歩みを進めると、水はさすがに綺麗ではないが何かの気配はある。一歩、また一歩と上流に向かって進む。車に常備してある偏光レンズのおかげで、水中はよく見える。しかし底までは見えない。対岸までスキャンした視線を足下のブロックまで戻した瞬間、水中に水煙の立つのが見えた。

『居る!』

 何か、大きな魚が私の影に驚いて逃げ去ったのだ。しめしめ。しかし、あいつを驚かすようではストーキングの腕も鈍ったなぁと反省する。

 いったん車に戻り、堰の上流100mほどの所に停め、歩いてまた堰まで戻る。今度は堰の上流の淵を探すのだ。抜き足、差し足、忍び足。ヨシの間からそっと覗くと、居た。大きい。80cmはあろうかという黄金色の魚体が静かに川底をつついている。最初の1尾を発見してそいつを見つめていると、まわりにもぞろぞろと魚影が現れてきた。

『こんなに居たのか!』

 普段はバイパスばかり通ってこの川の橋は渡らなかったのだけれど、こんなことならもっと早く来ていれば良かったと後悔2割、歓喜8割でほくそ笑む。しばらく群れを観察していると、まだ水温が低いためか、ほとんどの魚影は川底に関心があるようで、水面や流下してくる物体には興味を示していない。うーんこれは難しくなりそうだ。ときおり魚体が揺らめくと黄金色のウロコが日差しに煌めく。鯉だもんなぁ。(笑)

 などと思いつつ凝視を続けていると、突如上流で二度、水しぶきが上がった。ああ、あっちにも居たか。この堰の上・下流はこの近辺では第一級のポイントであろうと見極めたので、車でさらに上流を偵察することにした。

 ザワザワビシビシと車の底を草でこすりつつそろそろと移動していると、堰から1kmほど上流の対岸に、一人のおじさんが竿を出しているのを見つけた。今時珍しく延べ竿である。鮒狙いかなと思いつつ、帰りに詳しく観察することにした。県道を越えると水深がぐっと浅くなり、支流の合流点くらいしか深みが見つからなくなった。これは見込みが薄いかなと、さっきのおじさんの所へ戻ってみた。堤防の上に車を停め、車の中からそっと窺う。吹き付ける風を受けつつ草の中に腰を下ろし、短く刈り上げた頭に帽子もかぶらず、信じられないくらいの薄着でねばっているおじさんの竿は、延べ竿ではなく、細身で長いリール竿であった。リールは小型の黒いスピニングリールである。しばらく見ていると、餌は練り餌かパンのようで、対岸の比較的浅いポイントに餌を打ち込んでいる。餌の50cmくらい上に、必要最小限のオモリを付けているようだ。あの80cm級を釣り上げるには、どの位の太さの糸が必要なのか、聞いてみたくなったが、いきなりそんなブシツケな質問を初対面の釣り人にするのは気が引けて、ちょっとためらってしまった。

『あ! そうだ。親父に訊けばいいか!』

 と思いついた。今日は水曜日で、故郷の父はデイサービスに行かない日なのだ。携帯電話を取りだし、父に電話をかける。

「もしもし、タケシだけど」

「おお、どうした?」

「あのさぁ、80cm級の鯉を釣るとすると、ハリスは何号くらいでいいの?」

「そうだなぁ、まぁ5号かな」

「5号! そんなに太いの? 2号じゃダメ?」

 などという会話が続き、不肖の息子の近況などを報告して電話を切った。しかし、5号なんて使ったことないもんなぁ。3Xじゃぁダメかなぁ.....。この辺がシロウトの悲しいところで、さっぱり見当がつかないのである。まぁ帰りに釣具店に寄って必要な物は仕入れることにしておじさんの観察を続ける。すると、堤防の下の舗装道路に一台のダンプが停まり、黒いダウンジャケットを着た別のおじさんが降りてきて、堤防を上がり、川へと降りていき、最初のおじさんに話しかけた。どうやら釣り友達らしい。なにやら楽しげに話しているが、ちょっと遠くて車内からは聞き取れない。そこで、姑息にも車のサイドウィンドウを下げて、二人の会話を聞き取ることにした。ちょっとした盗み聞きである。

「・・・・アタリは・・・・せんといかんね・・・・・」

「・・・・今日辺りなら・・・・それでもちょっと・・・・」

 などという切れ切れの会話を聞く限りでは、状況はなかなか厳しいようである。と、突然、おじさんが身をかがめ、竿に手を伸ばした。アタリがあったのだ。身じろぎもせず竿先を見つめるおじさん。次の瞬間、おじさんが大きく竿をあおり、身を反らせた。

「あ!」

 どうやら乗らなかったらしい。餌の取れた釣り鉤がむなしく宙をきっておじさんの方に寄ってきた。

 そんなこんなを眺めつつ、結局4時すぎまで堤防道路からおじさん達の鯉釣りを見学し、ルンルン気分で帰途についた。さっそく必要な釣り具を買うために最寄りの釣具店を脳内カーナビで検索し、一番近い上州屋へ向かった。店の中では各地の渓流釣りの解禁を控え、賑やかなディスプレイが目を引いた。しかし、まず買う物は80cm級の鯉に対応したランディングネットである。ところが、店にはそんな大きなタモは置いてなく、仕方がないので管理釣り場で使うような40cm径のラバーネットを買った。あとは、白いエッグフライ、父の言っていた4号のハリスといったところである。パンフライを自作しようと思ったので、白のエッグヤーンが置いてないかと思ったが、そんなしゃれた物はさすがに置いてなかった。しょうがない、既製品のエッグフライに賭けてみるか.....と、会計を済ませると、なんと7,000円も使ってしまった。

家に帰り、デジカメの電池を充電しながら、買ってきたフライをボックスにしまう。ピカピカのネットのアルミフレームが眩しい。6番WFのフローティングラインをラインワインダーで巻き取り、コンディショナーを施す。これで準備は万端整った。いよいよ明日は出撃だ。

2009/2/4

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