北のレインボー、南のブラウン

一般的に、ニュージーランドの川・湖のうち、北島ではレインボートラウト、南島ではブラウンが多い、と言われています。

 このことについて、雑誌 Fish & Game NZ 24号に、ベン・ウィルソン氏が NORTHERN rainbows - SOUTHERN browns という記事を寄せています。ちょっと長くなりますが、ご紹介します。

 この記事によれば、NZ南島・北島におけるの鱒族の分布状況について、以下のような理由によって解説しています。

○歴史的理由

 ブラウントラウトは、レインボーに先駆けて1860年代後半から南島オタゴ地方を中心に移入、展開がなされた。そして1880年代にかけ、ウェリントン、タラナキ、南ホークスベイ地域までに広まったそうです。

 オークランド地域では、高水温が影響し、ブラウンの増殖は芳しくなく、代わりにレインボーが好結果を残したので、以降、この地域での展開(タウポ周辺を含めて)はレインボーが主となったようです。

○水温、河川の流況の違い

 1991年のJowett氏の研究(NZ国内の157地点における魚類潜水調査結果と水文、地理、生態系など120種の統計データ解析)によれば、年間最低水温、そして平均流量/中央値流量の比(流量変動の激しさを表す) という要因が両者の分布に影響していると述べています。

 レインボーの卵は、ブラウンより高水温でも孵化できるので、年間最低水温は、鱒の卵のふ化率に影響する。すなわち、水温の高い北島北部ではブラウンは繁殖が難しくなる。

 また、流量変動が小さい河川、つまり、スプリングクリーク、湖から流れ出している川など、年間を通じて安定した流量が流れる川ほどレインボーに好まれる...ということのようです。

 さらに、Jowett氏の別の調査では、激しい洪水の前後で河川内の鱒の生息数、及び生体総重量(biomass)を調査した結果、レインボーよりもブラウンの方が、調査地点に残存している割合が高かったとしています。

 こうした調査結果を踏まえつつ、ウィルソン氏は、上記では説明の難しい事例として、コロマンデル近郊(北島北部)でのブラウンの自然繁殖、北島中央部の洪水のよく起こる川でのレインボーの継続的な繁殖(滝の上流側なので洪水を待避して下流に降りているとは考えられない) などを挙げ、これら以外のアプローチとして「河川内での種別間競争」を提示しています。彼によれば、水温の高低がこれらの鱒の間の競争に影響し、高水温下ではレインボーが有利になり、低水温下ではブラウンが有性になるのでは? との仮説を投げかけています。

 記事の最後にウィルソン氏は、「もし、ブラウンがニュージーランドに移植されていなかったとしたら、今日レインボーは南島じゅうに広まっているだろうか?」

 と結んでいます。

 私としては、同じ川に両種の鱒がいると、ブラウンは岸よりの流れの緩いところ、あるいは深い淵を好み、レインボーは早瀬、流心を好むと言われているのに、なぜ洪水に対してはブラウンが強いのかが不思議です。これについては、ブラウンは河川内の岩や倒木などの障害物を好むというデータもあるのでそれが関係しているのか?

 あと、鱒が豊富であると判別された河川でも、バイオマス(生体総重量)は2g/平方メートル程度であることに驚かされました。これは、体重900g(=2lb、体長40cmぐらい)の鱒が幅10mの川に棲んでいると仮定(その川の魚の大きさはすべて同じであるとして.....)すると、45mに1尾しかいない計算になります。

 環境条件から、その川で維持できるバイオマスが一定であるとするならば、2700g(6lb)の鱒は135mに1尾しか棲めないことになります。単純な計算とおおざっぱな仮定ですが、南島西海岸の渓流で、でかいブラウンが数百メートル(以上?)に1尾しか見られず、日本の感覚からすると魚は大きいが魚影は限りなく薄い! と思ったことが実感できました。

 また、この2種類の鱒の気質についてですが、現地の人は、ブラウンをよく spooky:臆病 と表現します。私は虹の派手なジャンプがとても好きですが、大きなブラウンの重いジャンプにもココロを奪われています。先の記事の中で、ウィルソン氏は、Mangatutu川の調査で釣り上げられた鱒の比率が虹85%、茶15%だったのに対し、ドリフトダイブ(潜水調査)の結果では、ブラウンが少なくとも40%以上を占めていた.....という事例を挙げて、両者の釣られやすさにも言及していました。


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