自作の道具たち  ランディングネット

 今を去ること30数年前、大学院の1年生だった僕は、所属していた水理工学研究室の隣にあった木工室で、完備された木工道具を駆使して、見よう見まねでランディングネットを自作した。

夏のイワナと自作のランディングネット

夏のイワナと自作のランディングネット

 材料はホームセンターで買って来たヒノキの板材、たしか幅は20mmで厚さは2mmくらいだったと思う。フレーム部分は板材3枚をお風呂の湯につけておいてからじわじわと曲げ、ネットの形をこしらえた。型枠は使わなかったような気がする。グリップ部分は、2mm板を重ね合わせ集成して作り、フレーム部分を接着した。洒落っ気の無い、実用一点張りの工法である。サンドペーパーで面取りを行い、フレーム表面にはネットを保持する糸が入るだけの溝を彫刻刀で彫り、ネットの目の数だけドリルで穴を開けた。仕上げにニスを塗り、ネットを糸で固定した。ネットは実家の帰りに当時京橋にあった老舗「つるや釣り具店」で買ってきたオリーブグリーンの網であった。

 サイズは、フレームの空間部分の長径が、ちょうど30cmとなった。意図したものかどうか、今となっては忘れてしまった。短径は16cmである。このあたりはおそらくヒノキ板材の長さ、900mmから決まってきたと思われる。

 完成後、グリップの上部表面に、インスタントレタリングを用いて、筆記体で H&R と入れた。これはヒットアンドリリースの略で、バラシを意味していた。痛恨のバラシが無くなるようにとの願いからである。

 当時は、フィッシングベストの背中に KEY BAK チェーンを使って保持していた。自分で作ったひいき目を除いてもなかなか使い勝手が良く、在学中に何尾もの尺イワナ、ヤマメをランディングすることができた。このネットは大学院を卒業してから会社員時代、ニュージーランド留学時代を経て現在に至るまで使い続け、NZ北島では60cm級のブラウントラウトをランディングしたこともある。いささかサイズが小さ過ぎたが。

NZ北島のブラウントラウトと自作ネット

NZ北島のブラウントラウトと自作ネット

 先日、大学時代の釣り同好会OB釣行があり、新潟の山奥でイワナをすくった際に、ポッキリとフレームが折れてしまった。それほど力をかけた訳ではないので、それ以前に、岩にもたれた時に折れたのだろうと思う。30数年ぶりに訪れた懐かしの川を、ランディングネットがその最後の舞台に選んだのかもしれない。ネットを外して強力なエポキシ系接着剤でフレームを修理すればまだ使えると思うので、その暇ができるまで大事にとっておくつもりである。

 このネットには、数え切れないくらいの思い出が詰まっているのだ。

2016/09/21

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