父の釣り口伝

アユ釣りの夏に その8  弟が行方不明

 それからこんな話もあってなあ。

 ありゃぁ収(おさむ:肇の弟)の小僧だい。俺にも竿を貸しょお(貸せろ)とこくだい。それで例の菊兄さんとこの川へ連れて、おじいちゃんと俺と進と収と行っただい。

 それでアユ竿貸すのはだめだってわけで、しょうがねえもんだい雑魚釣り竿にオトリの弱ったようなやつ縛り付けてよう、さあやれっていうわけでやらしといただい。だけど釣れんだい、小僧いやになりゃがってよう、水浴びしとったわい。

 そうしたところが昼飯を食う時分になったら小僧おりゃへんだい(いないんだ)。シャツやら草履やらは脱いでほかってあるんだけど。それで進に呼んで来いって言ったところが、

「どこにもおらんぜ」

っていうわけで。さあ、みんな菊兄さんもおじいちゃんも案じ出しただいなあ(心配し始めたんだ)。やいどっかで水にはまっとりゃへんかっちゅうわけで。で、おれはカナヅチだらぁ、恥ずかしい話。それからしょんねぇ、上流へは来なかったって菊兄さん言うもんだいそれじゃ下流へ行きゃがったちゅうわけで、進がおとましい(ご苦労なことに)下流の中設楽の所まで深い淵に潜っちゃあ、このへんに沈んではおらんって言ってとうとう今の加工場の所まで来た。それでもおらんちゅうわけで、

「やい進こりゃしょうがないでいっぺんうちに行ってみめえか」

 って言って、うちへ帰ってきたらよう、

「兄ちゃん、釣れたぁ?」

なんてちゃっかり家におるでいかんわ(笑) それで進のやつが収の頭をパカーッン!て小突いて。(笑)

 収の小僧、川から家までパンツ一枚で歩いてくりゃがって。あの当時なあ、今の頭首工のこっち側はあんな道が無くて、月の堰堤からずーっと中設楽の処理場の所まで田んぼに水を引く用水があったんだよ。それで小僧その用水づたいに歩いてきたって言うんだよ。だもんで県道すじを人に聞いたってみんな知らんて言うわけだ。それから処理場の所で道に上がって家まで帰ってきたって言うわけだ。それでおれと進は魚釣りたいの我慢して家まで探しながら来たらよう、

「釣れたぁ?」

なんて聞きゃがって。あの小僧は子どもの時から行方不明の癖がありゃがって。(笑)


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