釣行日誌 NZ編

タウポ支流の笹濁り

2002/07/13 (SAT)

 朝4時に起きてタウポに突撃する予定が、寝坊のせいであっけなく崩れ、家を出たのが8時。タウポ湖畔に着いたのは10時を大きく回った頃であった。去年友人に連れられて来て良い思いをした支流を目指す。以前彼が車を停めた場所まで来ると、土曜日のこの時間だというのに車が一台も停まっていない。

『やったね!』

 と、ほくそ笑みつつバタバタと支度をして、小道から流れに降りる。灌木の茂みを抜け、鋭い左カーブのポイントへ出ると、駐車場所に車が一台もなかったわけがわかった。流れはごうごうと音を立て、おまけに薄く濁っており、日本で言うなら笹濁りの状況。

『やられたネ..........』

 両岸ほとんどが藪で覆われているこの川は、平水時でも釣りにくいのだが、この大水ではほとんど竿を出せるポイントが無いかもしれなかった。しかし、失意のまま一度も竿を出さずに別の川に行くのも癪なので、いちおうそのポイントだけは攻めることにする。

 ところが、増水した流れは、手持ちの中で一番重いニンフをもあっという間に押し流してしまい、とても鱒が居る底層まで届かない。しつこく流すうちに、対岸の枝を引っかけてしまい、貴重なヤーンインジケーター(自作)とフライ2ヶを無くしてしまう。(泣)

 初っぱなからケチがついたので、気が滅入ってくるが、ひょっとしてこの大水なら、他の釣り人も攻めきらないかも知れない?と、楽観的な読みをしてみる。さらに、笹濁り状態の今日なら以外と喰いがいいかも知れないし、大水に誘われて湖から群れが入っているかも?

 幾多の楽天的な予測をもとに、さらに上流へ向かう。人気のある大淵で、地元の釣り人がニンフを流している。その淵に架かる橋の上から、しばらく見ていると、さすがにローカルの人々は上手い。無駄のない動作で、的確に、それらしい筋を何回も何回も流している。産卵遡上の鱒釣りは、鱒の食い気につけ込むよりも、しつこく流して反射的に目の前のフライを喰わせる、といった釣りのような気がするので、しつこいくらいのトライが必要であろう。

 などと高みの見物を決め込んでいると、上流から別の釣り人がやってきた。

「おはようございます! 釣れましたか?」

「グッデイ! ああ3尾掛けてみんなバラした。ネットがないとやっぱりきついね」

 おお! やっぱり魚はいるんだ。ようしオレもやるぞ。問題はランディングだな....などと色めき立ち、足早に上流のポイントを目指す。

 土曜日のすでに昼近い時間だが、メジャーな淵にもあまり釣り人がいない。みんなこの出水で見切りをつけたのだろうか?

 いくつか淵を攻めたものの、当たり一つ無いまま、右曲がりの淵が2カ所続いているポイントにやってきた。下流側の淵の、向こう岸寄りに魅力的な深みがあるのでしつこく流すが反応がない。少しずつ上流へ釣り上がり、上流側の淵を攻めてみる。対岸から灌木の枝が水中に垂れ下がっており、その前後に、これも魅力的な深みがあり、流れが渦を巻いている。

 右岸側から釣っているので、利き腕が反対側となり、上手く投げられ無いながらもなんとかバックキャストで重いニンフを淵の流れ込みに投げつける。

 一投、二投、三投。反応なし。五歩上流に歩いてその繰り返し。さらに繰り返し。ここにも居ないか.....と思いつつなかば惰性でニンフを流していると、枝が水中に垂れている辺りの乱流で、インジケーターが一瞬ぴくんと沈んだ。

『?』

 と、合わせてみるがスカッと空振り。変だなぁともう一回流すと、またぴくんと沈む。

『!』

 むぐむぐむぐと水中から得体の知れない脈動が伝わり、笹濁りの水面をリーダーが上流へ動き出す。

『うわっ! ヒット!』

 これまでなんの音沙汰も無かったのでやや焦りつつ、ロッドを立ててラインを巻き取る。さて取り込みは?と思って下流を見てみるが、速い流れが川幅全体に広がっており、どこにも魚を遊ばせるような場所がない。おまけに一抱えの灌木の茂みが岸辺に生えており、岸づたいに下流へ下る道筋を塞いでいる。

 姿の見えない鱒は、しばらく淵の中で抵抗した後で、不意のジャンプを試みる。ドッパーンと跳んだ銀色の魚体がきりもみしながら水に落ちる。ジャンプに見とれるスキもなく、今度は鱒が下流へ下る。

「ジジジジジジジィィィィィ!」

『うわっ! そっちはマズイ!』

 灌木の後ろを回ることはできず、灌木の前を魚について行こうとすれば、速く深い流れと不安定な砂地の川底で転んでしまいそうだ。ここは懸命にティペットの限界を信じつつ、鱒を寄せにかかる。出水した重い流れと、丸々と太った湖育ちのボディを武器に、鱒が最後の抵抗をする。寄せてきた魚体が、灌木の枝の中に押し流される一歩手前で、ロッドを立てたまま後ずさりして、再びこちらに引き戻す。なんとか鱒の頭が浮いた。もう一度こらえ、空気を吸わせて主導権を握る。

 浮いた頭をネットですくい上げたのは、灌木から二メートル上だった。

 苦労して釣った最初の1尾、55cmのレインボーをすかさずシメて、ウェストバッグにしまう。

 その後、日頃の運動不足を痛感しながらさらに2kmほど上流へ登ってみたものの、30cmあまりのかわいいブラウンを釣っただけに終わった。オレンジ色のエッグフライに喰いついてきたところを見ると、このブラウンは川に居着いているヤツで、遡上してきた大物が産み落とす卵を横からかすめ取っているのかも知れない。朱色の斑点が美しいブラウンであった。

 よろよろと歩いて車まで戻り、国道端の駐車場で3時の休憩とする。河口に近いこの場所はさすがに人気のポイントであり、老若男女がロッドを振っている。国道橋のすぐ下で、革ジャンを着てスニーカーを履いて釣っていたおっさんが、しばらくして大きなレインボーを下げて戻ってきた。

 日本では、着ている服であるていど腕がわかるとか言われているのだが、ここでは通用しない。ヨレヨレの作業服や、拾ってきたようなゴム長で、10ポンドオーバーの鱒が釣られているのだ。

 タウポの湖上には、ちらほらと青空が見える。時折照る日差しのぬくもりを楽しみながら、遅い昼寝をむさぼった冬の土曜日の午後。


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