アメノウオ一代 その11  伊豆修善寺の慰安旅行にて

 まんだ面白い話があるぞ。公団へ入って、2度目の旅行にさ、伊豆へ行くっちゅうわけだ。あれは伊豆の修善寺の近くだったよ。そこへ行っただ。

 それでおれははいひらめいちゃっただい。伊豆って言えばようアメがおるっちゅうことを聞いたことがあるなあと思ってよう。

 はい(もうすでに)その公団入った時分にゃあ俺もいくらか金が出来てさ、あん時に竹の竿でなあ、50センチぐらいの仕舞寸法の竿を持っておっただ。でそれがなあ、伸ばすと3メートル30センチぐらいの竿だったわい。

 それをさ、袋に入れてカバンに入れてよう、例の通り養鶏場の裏からミミズ掘ってきてさ(笑)、なあ、で仕掛け持って行ったら良い沢があるじゃねえか。

--修善寺温泉の近くにか?

 おう。なんて言う宿屋だったなぁ小さな宿屋だった。で宿へ入って、そしたら野郎んたち、入るか入らんかの時からはいマージャンだなんとこいて。家でやりゃあいいのに。(笑)

 横山君は女の子や大岩君たちと遊覧バスに乗るなんて言って出てったわい。それからおれ女中さんによう、

「ちょっと、この沢にアメノウオっちゅうものおるかい?」

て聞いたら

「知りません。」

て言うだい。知らんだい、魚の名前が地方で違うもんだい。あっちで何とか言ったがなあ。こういう魚だって言ったら

「ああ、いますいます。」

っていうわけで。でその女中さんが

「それはあの魚は釣れません。ずるくて。」

「おるかん?」

「ええ、いることはまちがいないです。」

 それで、あのへんはワサビ田があるだい。その真ん中を沢が流れておって。で「へたに行くとワサビ泥棒と思われるで気をつけなさい。」

って言うもんで

「おう、ワサビなんか欲しかねえだ、おら魚が欲しい。」

 ちゅうわけで沢歩きの足袋が当時売りがあったもんで、まあいまの足袋みたいに良くはないし、ゴムじゃないから水にはいると冷たかったけど。でそれを出してさ、履いて行ったら釣れるじゃねえか。こりゃ釣れるっちゅうわけで。それからたくさん釣って持ってきて、宿の裏までまた戻ってきて、魚の腹割いておったらよう、

「ほいほい」

って言うもんだい見たらへんな男がおるら、

「なんだい?」

って言うと、

「おじさん、その魚どうするの?」

って聞くもんで、

「どうするって魚釣ったもんで持っていくだい。なんか文句でもあるか?」

「おれに売ってくれ」

って言うもんでなんだと思ったら

「俺、この宿の板前だ。」

「なんだ、俺はこの宿に泊まっておるだぞ」

「はあ?」

「ほいだってお前、俺やることないだもんでマージャン知らんし女の子には置いて行かれるもんで魚釣っておるだ。」

「ほーう!あんた上手だわ。」

 なんとこいてよう、分けてくれって言うもんでいいだいいだそれやるってなことでなあ、やってさ。おらそんなことは忘れておったい。あいつどっかのお客にそのアメノウオ出しゃがっただよ。俺達には出さなかっただで。(笑)  そいでみんなが一杯飲んであくる日になって、韮山の反射炉のあった方へ行くとか言ってバスが来て乗る時になって、番頭がよう、キョロキョロして来りゃがって、

「ああ、あんただあんただ。」

「何だ?」

「昨日、魚分けてもらったんで、お金を払います。」

「いいよ、そんなのは」

って言ったけどくれるっちゅうんでもらったらよう、

「まあ、変な紙に包んであてがいぶちでわるいけど、これで勘弁して下さい。」

「いいよ、いいよ俺は魚釣るのが面白いんだで。」

で女中さんも助かったなんて言っておるら、そしたらみんなが

「何だやれ(何があったんだ)、お前?」

 こういうわけでおれ銭もらったって言ったら横山君が

「ばっかやろう、そんならおれにも言え!お前だけいいことしやがって。で、いくらもらった?」(笑)

って言うもんで見たらようあの時分の金で5千円くれたぞ。

--ふーん、そりゃすごいわ!

 おれの月給が1万8千円ぐらいの時に。だからやつらええかげん高く売りゃがったに相違ないだい。横山がおどけちゃってよう(びっくりして)

「おんしは調子良いなあ!」(笑)

 それからしょんねぇもんで、おら酒は飲まんもんでどうしても女の子たちと集まっちゃって、どっかの喫茶店でコーヒーおごってやったよ、その金で。

(注: 作者も会社の泊まり込み会議の時にパックロッドを持って行き、早朝に釣りをしたことを告白します。湯ノ山温泉でしたが1尾も釣れませんでした。(笑))


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