君よ知るや南の国

南ワイカトのスプリングクリークにて(3)

 皆様、こんにちは。ニュージーランド北島のハミルトンからお届けします「君よ知るや南の国」です。日本では、荒れ気味の天候の日もあったようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 ハミルトンは秋の安定した天気になり、湿度も少なく、一年中で一番過ごしやすい季節になりました。鱒たちも、そろそろ産卵の準備を始める季節であり、大物がペアを組んでいる姿も見かけられるようになっています。

 今回も、前回に続いて、スプリングクリークの鱒釣り その3をお届けします。

2001年1月14日 南ワイカトのスプリングクリークにて(3)

 三回流したポイントからようやく姿をあらわした褐色の影は、まずまずの大きさのレインボートラウトであった。が、大きさのわりに力がなく、意外と簡単に寄ってきた。見ると、エラの後ろに大きな傷がある。ウナギか鵜にでもやられたのであろうか? すんなりネットに収まった鱒の傷が痛々しく、すぐにリリースしてやる。もっとも釣り針に掛けているのだから、ウナギや鵜と同様、恨まれてもしょうがないところではあるが......

 二股の流れを過ぎて、スプリングクリーク特有のぐねぐねの連続したカーブ、フラットな直線の瀬、藪のかぶさった深みなど、めぼしいポイントを探って釣り上がってみるが、ほとんど魚の気配が無い。これほど魚影の濃い川であっても、魚の居着く区間と、そうでない区間とはかなりはっきり分かれており、いつ行っても釣れる場所、いつ行ってもまったく釣れない場所とがある。もっともこれは、自らの技量によるところも多々あり、魚のいる場所にフライを流すことができないせいもあるだろう。

 いつ来ても釣れない区間はさっさと簡単に探り、N君との間では、「この川の一番のポイント」で通っている左曲がりの淵が見えるところまで来た。ここからその淵までの約100mの区間は、大物が潜んでいる確率が非常に高いのである。

 N君と二人でその淵を訪れたのは、昨年の10月末のことである。遡行の途中、なにげなくその淵を高巻きして越える際に、切り立った崖の上から見えたのは、ゆったりと逆巻きに流れる青い水中に、堂々と、恐れるものなく定位している3尾の鱒の影であった。それまでその川で、「私達が」フライで釣れる鱒の平均的な大きさは25cmほどであり、35cmを越えるのが釣れれば「大物」と言っていいくらいで合ったので、悠然と餌をあさる3尾の大きさは、私とN君に、驚異と畏怖をもたらしたのである。

 しばし無言で彼らの姿を見つめた後、これは高巻きで通り過ぎる場合では無いということで意見が一致し、N君と私は、いそいそと下流の瀬を対岸へと渡り、その左曲がりの淵を釣るために、はるか下流から匍匐前進で最も理想的なポジションまで体を進め、とりあえず竿を置いて観察を始めた。

 一番小さい鱒は、およそ45cmぐらい。しきりと淵のあちこちを動き回っていた。二番目に大きな鱒は50cmをちょっと越えたぐらいで、たるみと流心の境目辺りに定位していた。そして、一番の大物は、おそらく60cmを越えているであろう、目を見張るほど大きな頭と、それに続く太い胴回りが私達の目を瞠らせた。いずれも虹鱒のようであった。

「うーん、いたねぇ、デカイのが.....」

「いましたねぇ。でもあいつら、フライに反応するかな?」

「・・・・・・・・」

 No.1とNo.2は、およそ水深1mほどの位置で餌を待っている。一番小さなNo.3は、時たま水面に鼻先を出しているが、基本的には水中の餌がメインのようであった。N君と私は、それぞれ思い入れのあるフライを、付け替え、いつもより太いティペットに結んだ。

 結果的にその日私達が2時間そこで粘りながら次々と繰り出したドライフライ、ニンフ、ストリーマーなど各種の人工的な毛針はことごとく3尾に無視されたのであった。

 以来、二人でいっしょに来る日もあれば、それぞれ相手に内緒で抜け駆けして狙った日もあったのだが、かれこれ三ヶ月の間、私達はその3尾に翻弄され続けたのである。一度、N君が、水生昆虫のハッチの一番盛んな11月の夕方、暗くなるまで粘って、とうとうNo.1を誘い出し、見事にフライを喰わせることに成功したのだが、ファイトはほんの一瞬しか続かず、あっという間に糸を切られて終わったのであった。

 さらに、N君も私もルアーでの釣りもするので、目先を変えてキンキラアの金属片で3尾をたぶらかしにかかったのだが、これもすげなく拒否され続けていた。

 さて、今日は夏の真っ盛りであるが、最初の数尾はドライフライにまずまずの反応を示してくれた。この先100mほどだらだらと続く荒瀬の深みと、核心の左曲がりの淵で、果たしてNo.1~3の大物達は出てくるのだろうか?

 その長い荒瀬は、一見、なんの変化もない魅力に乏しい流れなのだが、左岸沿いに密生した水草が深いエグレを形成し、鱒たちに理想的な隠れ家を提供している。ところがこのエグレは、非常に釣りにくく、いつ来ても私を泣かせるのである。

 水草の上に足を踏み入れると体がズブズブと沈み込んでしまい、深いところでは胸まで水に浸かってしまう。さりとてウェーディングして、ポイントの直下から攻めようと思うと、けっこう深いので、水の勢いでウェーダーから水が入ってきてしまう。また、足場の良い牧草地の端から釣ろうと思うと、水際と角度が付き過ぎててフライをうまく流すことが出来ないし、水草にラインが絡まってどうしようもないのである。いっそのこと、対岸から攻めようと試みたときもあったが、遅いようでけっこう速い流れが、あっという間にフライを運び去ってしまい、水草の影に潜む鱒に、どうしてもフライを喰わせることができなかった。

 荒瀬の中ほどにずーっと続く水草が、ちょっとだけ開けてぽっかり穴が開いたようになっているポケットがある。そのポケットの下流、2mほどは、すこし流れが緩くなっており、いかにもなにかありそうな怪しい雰囲気を醸し出している。はるか下流から、冷たいのを我慢して水の中に立ち込む。夏になったので、暑苦しいウェーダーをやめて、化繊のタイツにショートパンツを重ねて履くという、純ニュージーランドスタイルで今日は釣っているのであるが、夏とは言えど片田舎、ワイカトのスプリングクリークは、年中水温が12~14℃で安定しているので、最初は心地よいが、長い間水に浸かっていると頭がジンジン、大事な場所がキーンと縮んでくる。

 めざす水草のポケットまであと10mほどまでねちねちと探りながら釣り上がってきたのだが、胸まである水の冷たさにネを上げてとうとう水草の上に這い上がる。ぜいぜいと息を荒げながら、忍び足で水草のポケットに近づくと、足元の水草の下から、黒い影が弾かれたように上流に飛び出して泳ぎ去った。

『ガーン! ここに居たのか!』

 No.1ほど大きくはなかったが、No.2と同程度、50cm級の影の去っていった岸辺に呆然と立っていると、N君が追いついてきた。今のが例の淵のNo.2でないことを祈りながら、N君とその淵をめざして匍匐前進を開始した。(次回に続く)


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