南ワイカトのスプリングクリークにて(2)

 皆様、こんにちは。ニュージーランド北島のハミルトンからお届けします「君よ知るや南の国」です。日本でも、だいぶ日が長くなってきたようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 ハミルトンはだいぶ夜明けが遅くなり、日暮れが早まって来ました。秋の気配がしないでもないかな....といった感じもしますが、今日は一転して、格段と暑い一日でした。

 今回は、前回に続いて、スプリングクリークの鱒釣り その2をお届けします。

2001年1月14日 南ワイカトのスプリングクリークにて(2)

 いつものごとくとは言うものの、華麗なジャンプを魅せるワイカトのレインボーは、1尾1尾それぞれの流儀で戦う。この1尾は、いきなり上流に向けてずずずず~っと引っ張り出すようなことはないので、それほど目を剥くような大物ではないが、フライをくわえた場所からずっしりと思い手応えで斜め下流に駆けだし、止まったところで挨拶代わりに高いジャンプを見せる。まずまず、この川では大物と言っていい大きさ、40cmほどのレインボートラウトが、紅い頬を見せて一瞬宙を舞い、飛沫をあげて水中に没し、再度逸走を始める。

 手元の余分なラインをリールに巻き込み、竿を高く掲げ、リールでのやりとりを楽しむ。向こうで釣っているN君を大声で呼びたくなるが、それほどのことも無いか.....と自重する。グングンぎゅんぎゅんと、高回転型のエンジンのような振動が、日本製の古い5番のパックロッドを通じて心臓に伝わる。

 あたりはすべて浅い流れの瀬が続いており、魚を遊ばせておくには十分に広い。しかし、下流に見える淵の青い深みと、覆い被さった岸辺の草むらのエグレに入られては面倒なことになるので、その手前の浅瀬で取り込むべく、主導権を取るために竿を立てながらラインを巻き取りにかかる。負けじと鱒も、再度ジャンプを繰り返す。連発仕掛けの花火のような水しぶきが水面に散る。鱒を寄せながら、下流に歩み寄り、さあてネットを握ろうとした瞬間に、水面でバタタタタタッと暴れた魚の顎からフックが外れ、竿が意識を失った。

「お~ううううっ!」

 痛恨のうめき声が出る前に、銀色の光は下流へと去っていった。

『うーん。いかんいかん。釣るべき魚を2尾も逃がした。しかも釣り始めた初っぱなの2尾だった。』

 初っぱなの魚を釣り損なうと、どうも後々までツキの巡り合わせが良くないのである。田舎の老父も、

「一日の最初の1尾を大事に釣れ」

 との教えを、焼酎の蓋をひねるたびに垂れていたのであるが、故郷から8000km離れたこの水面には、愚息のフライラインがあてど無く垂れているだけなのであった。

 気を取り直して、続く淵の曲がり、向こうの藪の下、続くポイントを探ってゆく。いつもルアーで出るポイントからは、なんらかの反応はあるが、ほとんどすべてがちびっ子虹鱒のごあいさつである。ドライフライでは、水面を見ているほんの一握りの鱒しか相手にできないので、釣れる数というのはルアーに較べ、圧倒的に少ない。水中深くを釣るニンフの技法もあるのだが、魚が見えていないときに、ニンフで釣り上がるのはけっこう神経を使うので、のんびり釣りたいときには向かないのである。

 以前に大物が出た二股の流れの下まで来たので、ひょっとしてまだいるかもしれないと思い、慎重に慎重に探ってみたが、水面は割れもせず、見放されたドライフライが何度も流れてゆくだけに終わってしまった。

『むむむ。いよいよツキが離れてしまったかな?』

 と、徒労感が表われて来たダラダラのキャストに運ばれたフライが、二股の流れの分かれ目の上に落ちて、右の筋を流れ出した。左の筋よりは、有望そうだが何も起こらない。水量の少ない左の筋は、ちょっと暗ぼったくて怪しい雰囲気だったが、これも沈黙のまま。川に立ち込んだまま、分かれ目まで歩み出てから次の落ち込みを探る。

 めぼしい筋を一回、二回、三回流してあきらめて、もうちょっと上流へ動こうと、フライから外した視線の目尻の辺りで、なにか褐色のもやもやがフライに覆い被さった。(次回に続く)


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