君よ知るや南の国

ラグラン港の日曜日、海の小物のサビキ釣り(3)

turigu.com通信 ■  [Vol.25] 2001.6.7 より


 皆様、こんにちは。 ニュージーランド北島のハミルトンからお届けします「君よ知るや南の国」です。

 日本では各地で梅雨入りした模様ですが、ハミルトンでは、冬場の名物、霧が発生しており、毎日昼頃まで、街全体が一面の白い海の底に沈んだようになっています。霧が晴れれば青い空が広がるのですが、午前中はパッとしない天候が続いています。

 さて、今回も、引き続きラグラン港でのサビキ釣り(その3)をお届けいたします。

 水産会社の加工工場兼倉庫の前にある船着き場には、ちょうどイースターホリデーの最終日、しかも満潮が午後4時頃と合って、大勢の家族連れで賑わっている。船着き場の左端からは、おそらく観光船がお客を乗降させるための小さな桟橋が突き出している。畳にして三畳ほどの広さのその桟橋に、N君と陣取り、お隣のカップル(なぜかフランス語を話していた...)といっしょに流れにサビキを沈めた。

 表層には、例のボラに似た小魚:マレットが餌を取りに群がって来るので、それを避けつつ、とりあえず底をとり、静かにサビキと、鉤に付けた切り身を上下させてみる。ときおり、

『クククンッ!』

 と、どうもマレットではないような鋭い当たりが伝わるが、魚が小さいのかどうもサビキをしっかりくわえておらず、付けた切り身だけをつついているようだ。

『ククッ!』
「それっ!」

『カクンッ!』
「ほいきたっ!」

『ググッ!』
「これでどうだっ?!」

 薄濁りの海水の下、なにやら激しく当たりはあるのだが、タイミングが悪いのか、合わせが強すぎるのか、小物に餌を取られているのかさっぱり竿に乗らない.....

 N君の竿にも当たりがあるようで、竿先がグングン弾けているのが見える。

『うーん.....いったい何がつついているのか? カウワイかそれともマレットか』

 向こうに見える船着き場のデッキでは、思い出した頃に歓声が上がり、竿を大きくしならせてカウワイや小鯛が釣り上げられている。

『こんだけ当たりがあるんだから、いつかは釣れるだろう』

 当たりに反応して合わせを数回繰り返すと、ふっと当たりが遠のき、おかしいなあと思ってリールを巻いてくると、すっかり餌を取られてしまっており、素のままのサビキが空しく上がってくる。

「カワハギに尾敵する餌とり名人でもおるんかいな?」

 乏しい海釣りの知識では、カワハギが餌を取るのに長けている....ぐらいしか思いつかず、愚痴をこぼしつつ餌を付け替える。

『もうちょっと餌を小さくしたらどうだろか?』

 大物カウワイ狙いというわけでもないのだが、少々マレットの切り身が大きすぎたかも知れないと思い直し、ぶつ切りの胴体をさらに半分にきざみ、取られにくいように皮の部分を数回サビキの鉤に刺してみた。

『さぁて、これでどうだ?』

 シュルシュルとサビキが沈んでゆき、オモリが底に着いてフッと竿先が上がる。糸の弛みを巻き取って、柔らかいウルトラライトのスピニングロッドの先を見つめる。

「ククク、カクんっ!」

『今度はちょっと間をおいて....ひょい!』

 はるか昔、子供の時分にアマゴ釣りを覚え始めた頃、どうにも合わせがうまくできなかった。父の教えてくれたように、コツコツという当たりがあった時に、ふっとタメてやることができず、いきなり合わせてしまうのであった。

『コツコツッと来たらなぁ、きも~ち緩めてやって、ピッと鋭く合わせるだぞ』

 はるか昔に教わったアマゴの合わせが、姿も分からないニュージーランドの海の魚に通用したのか、いきなりスピニングロッドが絞り込まれ、ギュイーンと魚が走り出した。

「うほっ! 乗った乗ったァ!」

 かなりの勢いで底から中層を縦横無尽に走り回り、4ポンドのラインではいささか無理かな?とひんやり心配させ、そばのカップルに何事が起こったかと思わせた問題の魚がとうとう水面に浮いてきた。

「アジだっ!」

 黄色い尾びれ、流線型の体、尾の付け根のギザギザが鮮やかに見えた。間違いない、アジ:Jack Mackerel である。体長は20センチを越えたぐらいだが、かなり激しい引き込みを見せて、再び水中へ消えた。

「あっ! いかんいかん。そっちは杭がある!」

 桟橋を支えているコンクリートの柱の回りには、船の舷側を付けるようにゴツイ木製の緩衝材が張り巡らせてあり、そこから何本もの杭が立っているのである。サビキをしっかりくわえ込んだアジは柱めがけて懸命の逸走を試みる。

『アジは口が弱いって言ったよな....確か.....』

 これもなけなしのうろ覚えの知識によれば、あまり強引に引っ張るとアジの薄い唇が切れてしまうそうなので、むやみに寄せるわけにもいかない。
 立ち上がり、腕を精一杯伸ばしてやりとりし、ようやく弱ったアジをそろりそろりと上げてくる。桟橋のコンクリートに、ぴちぴちとアジの体が踊った。

「やったぁ~!!」

「刺身か? いやフライだな?」

 このぐらいのアジが釣れるとなれば、今後の私達の食生活がかなり改善されることになる。最初の1尾をシメてクーラーボックスに入れた途端、私の思考は一挙にまな板モードへと突入した。

 アジ→アジフライ→レモン→パセリ(帰りにスーパーで買おう....)
 アジ→刺身→刺身醤油→ワサビ(これらは台所にあったな....)
 アジ→刺身→ショウガ醤油(ショウガも台所にあるな....)
 アジ→たたき→シソの葉まぶし(シソを入手するのは難しい....)
 アジ→唐揚げ→ビール(缶ビールを冷蔵庫に入れてなかった!)

 視神経と胃袋の粘膜が直結されたような妄想を、N君の声が断ち切った。

「こっちも乗ったよ!」

 ぐいぐいと絞り込まれる彼の竿先を見ながら、上記の妄想をすべて実現するためには、少なくとも、一人あたま10尾はアジを釣らなければならないことに気づき、あわててマレットの切り身をサビキに付けることにした。(続く)


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