釣行日誌 NZ編 「その後で」
ブラディー、ブラディー、ブラディー
1999/12/15(WED)-3
水族館を出て銀行に寄り、ハイウェイ6号沿いをとぼとぼと家に向かって歩いていると、ブリントが車でやってきて、
「おーい、乗れ乗れ。 友達の家に行くぞ」
と言うので、トヨタの青いハイラックスに乗り込み近所の友人宅におじゃまする。
「おー、ブリント! 調子はどうだ? 釣りに行ってっか?」
「おー、よう来たよう来た。 なに?日本から? そりゃまたはるばる大変なこった! まぁうまいお茶でも飲め飲め」
などと、ブリントの友人であるヘンリーさん宅で午後のお茶が始まる。ヘンリーさんは自動車のメカニック。逞しい体をツナギの油汚れが包んでいる。ソファーにはご年配のジョーンズさんとパトリックさん。ジョーンズさんは、テレビでイギリスのお年寄りがはめていたのとまったく同じような指無し手袋をしていたので可笑しかった。
それはいいのだが、西海岸の荒くれ男たちは、やたら
“ブラディー” (Bloody)
という言葉を多用するのである。先の会話で言えば、
「おー、ブラディーよう来たよう来た。なに?日本から? そりゃまたブラディーはるばる大変なこった! まぁブラディーうまいお茶でも飲め飲め」
というように、わずかなセンテンスに3~4語のブラディーがちりばめられるのである。
再び、研究社の新英和中辞典によると、
Bloody
《形》
4 [A] (比較なし) (英俗) ひどい, いやな, べらぼうな (★【用法】 しばしば単に強意語として用いられる)
・ a ~ liar 大うそつき
・ (英口語) a ~ fool 大ばか (略 b.f.)
・ a ~ genius すごい天才.
━《副》 (比較なし)(英俗) ひどく, べらぼうに
・ ~ cold やけに寒い.
などとある。
「俺たち明日から南に下り、ボートで湖を釣り歩くんだ」
「おうおう、それなら○○湖がいいぞ」
「わしが行ったときにはあそこはからっきしアカンかったぞ....」
「いや、やはり△△湖じゃろうて....」
船頭が勢揃いで我らのボートは山を目指しそうであった。
「××湖じゃったかな? いやマ、そりゃ入れ食いでアタルんじゃがなぜか竿に乗らん..... いやぁフックは研がんとアカンぞい」
かなり信憑性の低そうな情報の中から最後にジョーンズさんが貴重なアドバイスをくれたところでおいとますることにした。
「みんないつもどこそこの湖がいいって言うけど、その湖のどのポイントがいいのかは言ったことがないんだよな」
と、ブリントは苦笑しながらギヤをローに入れた。
「ヘンリーはナイス・チャップ(いいやつ)だよ。ここらへんじゃみんな友達なんだ。みんないつもなにかしら助け合ってる。あいつもカミさんが出てってからは息子三人抱えて苦労してなぁ....」
そう言われてみると、ヘンリーさん宅の居間の本棚に、きれいに飾られた若者たちの写真があったことを思い出した。