なぜニュージーランドか? なぜフライフィッシングか?

1.なぜニュージーランドか?

 私の最初の海外釣行は、1997年、ニュージーランド南島西海岸の Lake Brunner 周辺の川であった。当初、候補地として挙がっていたのは、アメリカ、カナダ、アラスカなどでの鱒を狙ったフライフィッシングであったが、とある旅行代理店のパンフレットに、ウェストランド(南島西海岸)の原生林で、トロフィークラスのブラウントラウトを狙ってみませんか?というコピーがあり、それにいたく心を惹かれたのであった。

 旅行代理店のパンフの記事には、そこへ行けば大物がバンバン釣れる!といった感じで説明が書かれていたのだが、聞くと見るとは大違い。実際に現地に行って釣ってみて、その難しさにかなりヘコんでしまった。何せヘリで入った原生林の川で、何尾もガイドさんが鱒を見つけて、サイトフィッシングのチャンスが幾度となくあったのに、二泊三日のキャンプ中に1尾も釣り上げることができなかったのだ。しかし、その敗北を乗り越えて、湖から流れ出している川で中学生サイズのブラウンを1尾釣った時のうれしさを、心から実感してやみつきになってしまったのだった。また、現地で出会った素晴らしい人柄のガイドさんにも魅了された。

 以後、1998年に二回目のウェストランド釣行、会社を辞めて1999年~2002年末まで留学するまでにエスカレートし、現地での釣りを大いに楽しんだのであった。

 ニュージーランドの釣りの魅力、その一つの要素は、数多くのバリエーションに富んだ川・湖・海(水域)にあると思う。スプリングクリーク(湧き水の川)から白泡沸き立つ山岳渓流、幾つもの支流を集める大河川、静かに広がる湖沼、水平線遙かに広がる海など、釣り場には事欠かない。しかも、その数多くある釣り場に、実に魅力ある素晴らしいターゲット(鱒を始めとして数々の釣りの対象魚)が泳いでいるのである。鱒について言えば、1860年代にブラウンはヨーロッパから、レインボーはカリフォルニアから移入され、ニュージーランド全土に広まり、大きく力強く美しい鱒たちが、まるで絵はがきのような圧倒的に美しく雄大な風景の中に棲んでいる。

 以後、Acclimatization Society (フィッシュ・アンド・ゲームカウンシルの前身)の努力により、現在ではニュージーランドは、世界的な鱒釣りのパラダイス、メッカ、天国としてその名声を誇っている。フィッシュアンドゲームカウンシル(民間組織)による充実した釣り場の管理、安価なライセンスと豊富な情報の提供は、この国を訪れる釣り人にとって、とてもありがたいものである。

 ニュージーランドでは、ビギナーからベテラン、女性から子供にいたるまで、レベルに応じた釣りを楽しむことができる。さらに、淡水、海水どちらのフライフィッシングも楽しめる。また、フレンドリーな「キウィ:ニュージーランドの人々の愛称」の人柄は、フィッシングガイド、アコモデーションの人々の親しみやすさから実感できる。

 一方、農業国であると同時に、観光立国を目指してきたニュージーランドは、旅のしやすさ(物価の安さ、英語が通じること、アコモデーションの充実等)にも特筆すべきものがある。熊、蛇などの危険な動物がいないという安全性(南島西海岸にはサンドフライが居る(笑))、治安が比較的良いことも挙げられる。さらに、釣り以外のアクティビティ、観光資源も充実しており、有名な釣り場と観光地とが近くにあることも魅力的である。そして、日本とは季節が反対なのを活かして、夏休みにタウポ周辺での冬の釣り、冬休みに盛夏の釣りを楽しむことができる。

2.フライフィッシングの魅力

 フライフィッシングとは、皆様ご承知の通り、昆虫や小魚を模した毛針(フライ)を、比較的短く柔軟な釣り竿(フライロッド)と、リールに巻いた適度な重さのある釣り糸(フライライン)で遠くに飛ばし、魚を騙して釣る方法である。15~17世紀にかけてイギリスにおいて発達し、イギリス植民地を通じ、世界中に広まった、と想像できる。日本では、独自の毛針釣り「テンカラ」という、リールを使わないフライフィッシングが、職漁師の間で伝統的に発達してきた。

 フライフィッシングを映像で知りたい人には、1993年日本公開の映画「リバーランズスルーイット」がお勧めですのでぜひ参照にして下さい。また、最近(2020/01)見つけたのですが、ニュージーランドのフライフィッシングの様子がよくわかる映画として、「Only the River Knows」という作品があります。Vimeo や Amazon Video にて視聴が可能です。非常に迫力があり、実際のニュージーランドでの鱒釣りがよくわかるシーンが満載です。

 フライフィッシングでは、繊細にして豪快な釣りが楽しめることが一つの魅力となる。体長60cmを越える大物鱒が、さんざんフライを選り好みしたあげく、16番くらいの小さなドライフライにライズするようなことがままあるのだ。それまで堪えてきた忍耐力に基づく静謐さと、鱒が鉤に掛かってからの興奮の爆発という相反した体験を楽しめる。また、自分の手で巻いたフライで、賢い鱒を欺いて釣ることの楽しさ、奥の深さもある。自然観察、タイイング、キャスティングと、この趣味の深淵は、どこまでも続いている。

 ニュージーランドの鱒釣りを特徴付けるのは、何と言ってもサイトフィッシングの興奮であろう。ドライ、ニンフ、ストリーマー共に、泳いでいる鱒を見つけてからおもむろにフライを選択し、じかに見ながら釣り上げる興奮は何ものにも代え難い。しかし、「見えている魚は釣れない」という諺もあるとおり、サイトフィッシングは本当に難しい。

 一方、NZにおけるルアーの釣りもまた楽しい。現地ではルアーを楽しむ人はどちらかというと少数派なので、爆発的にヒットすることも珍しくない。

3.ニュージーランドでのフライフィッシングをお勧めする理由

 つらさ、楽しさ、歓喜、そのすべてを味わった上で、人生の中に貴重な想い出を作ることができる。有名な小説家・釣り人の開高健氏が言うところの、「精神の利息」を何千回となく味わえるのである。また、大げさに言うと、人生が変わる体験ができる。ニュージーランドでの魚釣りの魅力にとりつかれて、永住してしまった方が何人もいる。

 現代はインターネットを始めとして、情報はたくさん溢れている世の中である。1997年当時の日本ではニュージーランドの詳細な地図を手に入れるのは、本当に難しく高価だった。しかし、Googleの地図サービスや、Topo Map のオンラインマップを使えば、きわめて詳細な地図と航空写真とを居ながらにして見ることができる。Google の航空写真はきわめて鮮明で、大げさなことを言うと、トンガリロ川の淵に定位する鱒の影まで見えるのではないかと思えるほどである。

 また、インターネット書店の Amazon を利用すれば、洋書や Kindle 本のコーナーで、ニュージーランドの釣りのガイドブックを、リーズナブルな価格で、迅速に入手することもできる。昔は洋書の値段が実に高かったので実にありがたい。

 さらに、NZプロフェッショナルフィッシングガイド協会(NZPFGA) メンバーの一覧表までもパソコン上で閲覧できるようになった。けれども、私が一番言いたいのは、行ってみなければわからないことが、まだまだあまりにもたくさんある、ということである。百聞は一見にしかず。

 水中に滲んだ幻のようなゆらめき、最初の鱒を見つけた興奮、フライを結ぶ時の指の震え、鱒の口が水面を割る瞬間の心臓の鼓動、がっしりとした合わせの手応え、鱒に引かれて岸辺を下ってゆく時の足取りの頼りなさ............

 騙されたと思って、開高さんではないけれども、毎日サンマを食べて貯金して、一度ニュージーランドの岸辺で釣り糸を垂れてみていただきたい。昨今ではサンマの値段も上がり、高級魚になりつつありますが.....。

4.アドバイス
  1.  短期の釣行では、必ずガイドさんを手配して釣ることが必要となる。短い日程と、どうすることも出来ない天候のもとでは、行き当たりばったりの釣りで成果を上げるには奇跡的な幸運が無ければ無理だと思われる。腕の良いガイドさんたちはすぐに予約が埋まるので、手配は早めに。
  2. 長期の釣行では、入念な事前の情報収集、地形図(Topo Map オンライン)での調査・検討と、現地の書店・地図販売店での紙の地形図の入手が必要になります。ワーキングホリデーの制度を利用して長期間釣り歩かれる方は、この紙の地図が絶対必要である。Topo Map を販売しているお店は、Land Information New Zealand という政府組織の、ウェブページで検索できる。

     また、最新の釣り情報に関しては、Fish and Game が無料で配信、掲載しているニュースレター "Reel Life" に詳しく載っている。1例として、ウェストコースト地方の "Reel Life" はこちらから見ることができ、バックナンバーも掲載されている。
     その他の地方の "Reel Life" は、Fish and Game のトップページより、お好みの地方を選択して探して下さい。

     さらに、
      天気予報 ( https://www.metservice.com/ )
      交通情報 ( https://www.nzta.govt.nz/traffic/ )
     は上記サイトで調べることができる。

  3.  ガイドさんの言うアドバイスや指示をよく聞くこと。これまでに身に付けた釣りのスタイルや、好きなフライを使うことにこだわりたいお気持ちもよく理解できる物の、せめて2、3尾釣り上げるまでは、現地のガイドさんのアドバイスに従うことをお勧めする。
  4.  長時間の歩行に耐えられるように、足腰を鍛え、体力を付けておくこと。湖などでのボートの釣り、あるいはラフティングでの釣りは別として、ニュージーランドの川釣りはかなりの長距離を歩くことが多い。大物の鱒が生息するためには必然的に広範囲のテリトリーが必要となり、普通の河川では長い区間に1尾、あるいは2尾程度しか棲んでいないことがある。
  5.  ニュージーランドは日本と同じで、自動車は左側通行であるが、安全運転で、交通事故と車上狙いに気を付けて旅を楽しんでいただきたい。大都市を除いて、一般的に交通量は少ないが、地方の道路では急カーブも多いので、十分に気をつけて。郊外の道路では制限速度は100kmであるが、スピードの出し過ぎ→事故にはご注意を。
  6.  経験豊富な旅行代理店を選ぶこと。釣りのパッケージツアーに参加するのであれば、定期的に現地を訪れて、最新の情報を入手している旅行代理店を選ぶことが成功につながる。私が最初のNZ釣行で選んだ旅行代理店は、数社から資料を取り寄せ、一番詳しい内容が書いてあった会社を選んだ記憶がある。

 釣り道具と当てのない希望をバックパック満杯に詰め込んで、いざ、世界的な鱒釣りのパラダイスへ!

2009年 12月 6日 執筆
2020年 2月 21日 加筆

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