父の釣り口伝
アメノウオ一代 その10 豊根で釣った尺二寸五分
--おとうちゃんが釣ったアメの記録は何センチ?
尺二寸五分だ。
その尺二寸五分ぐらいのやつを釣った時にはなあ、今の豊根のトンネルを出てずーっと行くと橋があるら、あの橋の百メートルぐらい下流になあ、そうだなあ俺の背丈もないぐらいの1メートル20センチぐらいの石を積んだけちな堰堤があったわい。
ほいであそこに田んぼが3反部もねえぐらいあってそれへ送る水だもんでなあ素人が悪さしたようないぼりがあってよう、そのいぼりの下へ水がいっつもジャバジャバジャバジャバしとる。そこへまあぼつぼつやめにゃあいかんなあ日が暮れてきたなあと思ってチョーンと入れたらグイッときたら竿がこんなに引き込まれる。
やいこりゃでかいのが食いついたぞーっ!と思ってまんだいくらか明るいもんでこうグーッと持ってきたら変に赤く見えるもんだいよう、やあまたウグイの野郎が喰いつきゃがったと思っていたらどうもウグイにしては元気が良すぎると思ってこりゃなんとか上げにゃあしょんねえと引きずり上げた。
それから橋の所まで上がってきたらその一部始終を見とる人があってよう。
「やい、お前大きいの釣ったのう!」
なんてそのおじいさんが言うもんで
「ああ、大きい!」
「この橋の電灯で見してくりょお。」
そうしたらばか大きくてなあ、37.5センチだでなあ、大きかったよ。
そのかわりこんだぁ一番小さなアメはこのぐらいの爪楊枝くらいのを釣ったことがある。あれは横山君と釣りに行ったときでなあ、どうもこりゃ釣れそうにねぇっちゅうわけだ、二人で。それで
「どっちかよけい釣った方が晩飯をおごってもらって釣れなんだ方がおごるっちゅうことにせめいか」
って横山がそう言い出して、
「おお、そりゃいいだ。」
そして二人であっちとこっちにわかれて釣りだした。ほんとその日は釣れんだ。どういうわけか。とうとうええかげんたってからピリピリッとしたもんでピッと合わせたらどうだい、9号の針をそんな爪楊枝みたいなアメがちゃんと喰っておったよ。でこりゃ証拠に持っていかにゃあしょんねぇと思って針をプツッと切ってよう、篭に入れてさ、それから横山と落ち合って、
「やい、どうだった?」
「ああ、横山君残念だがお前がおごるだぞ。」
「釣ったか?!」
「釣ったよ。」
それで横山がどこだって篭見たっておりゃへんわなあ。暗いだもんで。で、自動車の所まで来てヘッドライト点けてよう、
「これ、釣った!」
って見せて。
「お前それどうやって捕った?」
「どうやって捕ったって言ってもこれ針が見えるら」(笑)
ほんとそんなやつでも9号の針を喰うで。横山が 「しゃあねえなあ」
なんて言って浦川でうどん食って大笑い。あれは水窪行った時だった。ばかに釣れなんだなあ。