父の釣り口伝
アメノウオ一代 その17 おれに言わせりゃ・アメノウオ編 流し方について
--流し方は?
流し方はなあ、たとえば自分があの岩に魚がおると目星をつけた場合、そこへ流れていった時にちょうど沈むっちゅうかな、だからエサをうんと上に投げてしまえばうんと上に沈んでしまうけど、ここで打ち込んですーっと沈んで目星の石に流れるっていうそのぐらいの気持ちではやっておるな。
それとたとえば糸がこっちへ行っとる時に、竿先の方が先下流に行っちゃっておるとかそういうことじゃなくて、垂直に対して15度か20度くらい竿の方がエサより後ついて行くようにしておるな。それで魚は上流へ向いとるもんで、下側へ向かって糸を引かにゃあかからんという理屈はそうだけども、20度に傾いておる糸が垂直になるぐらいピッと引けば、こうなった糸が真っ直ぐに伸びる時にはかかっとる。うん。
それと竿を立てれば一番いいんだけども、こう上がつかえて立てれん場合は横にしたってこうなっとりゃあ立てたと同じ理屈だもんだい、早くたてて最初のギャッと持ってくやつをいっぺんこらえりゃあまあだいたい捕れる。
糸が切れるときは最初のギャッという引き込みで切れる。グイーッとこらえてからはそう切れりゃあへんよ。 --こらえてから切れるときは糸に傷が付いとるときだね?
うん、そうでない場合だったら最初のひとのしって言うだかひと引きをこらえりゃあだいたい魚を捕れる。そりゃ毛ハリやフライ釣りでも同じだと俺は思う。かかったやつの最初のひとのしをこたえりゃあ、あとは上がると思う。
それとなんて言ったらいいだなぁ、絶えず注意して、もし喰いついた場合、後ろには木があるとか、10メートル下流に下れば魚をずりあげるいいとこがあるとか、それは見ておかにゃあいかん。その時になってあわてちゃあ。うん。
--やる前に見ておかにゃあいかんわけだね。
ほいで、魚を宙ぶらりんに上げると、ハリが折れたり切れたりするけど、ななめにこうやってずーっと持ってきて砂浜にずり上げるときには割合にはずれないし粗相が無い。ギュッとぶら下げてどっかへ持って行こうと思うとプツーンと切れるけども。あれおかしいなあ。
--そりゃ、水に乗っておる分だけは力が弱いんだろうねえ。
浮力が付いておる分だけはなあ、いくらか。それとお前ん達がようやっておるけど、今じゃあまあ俺はミミズばっかで釣るだけど昔みたいに元気のいいときだったら川虫を冷たくてもなんでも捕れるもんだい、釣った魚の腹切ってみてエモ喰っとるかどうか見ることは肝心だよ。
それともうひとつみんなが丁寧にミミズをハリに刺さなきゃハリが見えるなんてやるけどあれはぜんぜん必要ないでな。ハリなんかそんな物丸見えだって喰うだで。うん。とにかくミミズがこうあるら、小さいミミズこんなしてうまく刺せんはっきり言って。そんなものおらこういうふうにキュッとやって1ヶ所ぐらい刺すだけで釣るもん。 --今はそれで釣っとる?
釣っとるよ。丸っきりハリ見えとるけど。
--そういうもんか。
うん。エサ見たらワッときて喰っちゃうから。ハリが見えたからやめましょうなんてそんな知恵絶対無いで、魚は。ほうだて。
--なんべんつられて放されてもそうかなあ。
そうだよ。よっぽどねえ、口へハリがかかってあばれないかぎりは、ビリビリッあっしまった!ぐらいならまた来る。やつら腹がへっておりゃあ喰わなきゃしょうがないから。ウナギなんかとくにそうだい。だけど本当は最初の引きで釣っちまわなきゃうそだわな。そうだから俺言うじゃん、昔は10のアタリのうち8回は捕ったけども今は4回か5回だって。なかなか全部が全部捕れんよ、正直言って。
それから合わせっていうのは素人の衆見とるとグイッなんてやっとるけどあんな必要はない。クッとこうやりさえすりゃあ。糸がこうなってたるんでいるやつがピッと張るだけクッとやりゃあ。そうだいハリ先が1センチ動きゃあはい刺さっちゃうはずだもん。そんなにグイーンなんてやる必要ねえんだよ。
--そうかそうか。
うん。いまじゃあどうも腕がおかしくなっておるもんで(注:伊藤肇は平成4年の9月に脳梗塞で倒れ、その後なんとか魚釣りができるまでに回復した。)どうもタイミングが合わんだなあ。
それだもんでこないだ平谷で釣った28センチみたいに大きいやつにはハリを飲まれたりする。
--ありゃあ飲まれとったね。大きいもんでよけい飲むんだ。
それだから大きい方が釣り良いよ。なんの魚でも。小さいやつほどようカーンと引きたくりやがる。