父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その14 おれに言わせりゃ アユ編 テグスについて
それでねえ、あの時分、戦中から終戦、戦後にかけてテグスがねえんだよ。それだもんでおら親父が名古屋から持ってきたフナ釣りのテグスのより糸を使ってみたりいろいろして。
それだから、俺が言う持論だよ、テグスがいいからとか細いからとかで釣れるんじゃないんだあんなもなぁ、腹がへっとる魚がおりゃあ釣れるんだ。それでアユでもそう、例の白髪太郎の毛虫からテグス作って釣るんだ。今から思えば木綿糸みたいなもんだよ、それだって釣れたんだから。だからねえ、魚なんちゅうものはあまりいじめてなくて、腹がへっておりゃあなんだって釣れる。
それからこんだあオト箱でもそうだ、今みたいに真鍮やプラスチックはありゃせんらぁ、ブリキのオト箱が無かっただもんで。だからみんな木の箱で作るだよ。ところが建具屋さんに作ってもらうと金がいるもんだい、素人がつくるだ、そんなもん水がダダ漏りだぁ。(笑)ほんと。
それで俺は幸い建具屋習ったもんだいよう、自分で作って。どっかそこらへんに2階かどっかにあったら、俺が作ったオト箱。
それから手網を買いに行ったって手網は終戦後物があらせんもんだいよう、お蚕さんの網って知っとるお前、あれを木の枠に綴じ付けて手網だもんだい。それだって今よりよっぽど釣れたんだでなあ。結局あんまり大勢して釣ると釣れんだよ。うん。