フライ・キャスティング ひとりでマスターするためのテキスト

1986年に発行されたこの本「フライ・キャスティング」は、サブタイトルに「ひとりでマスターするためのテキスト」と銘打たれている。

フライ・キャスティング ひとりでマスターするためのテキスト

 2018年のニュージーランド南島釣行では、初日の朝一番に、汽水域の浅場で、大型のシーラン・ブラウントラウトが3~4尾ウロウロ、フラフラ彷徨っているのを目撃した。すっかりアタマに血が上ってしまった僕は、やたらとロッドを振り回し、全然ストリーマーが飛ばない。

 僕のダブルフォールより、ガイドのディーン君がフォール無しでキャストする方が飛距離が出ているのだ。(笑)

 見かねたディーン君が、

「ゴウ、こうしてロッドのグリップの先を、シャツの袖に入れると、手首が返りすぎることがなくなって、上手く投げられるぞ...」

 と、涙がでるほどありがたいアドバイスをしてくれて、若干調子が出たものの、結局そのラグーンの鱒を掛けることはできなかった。

 そんなこんなで、来たるべきNZ再訪のために、初心に戻ってキャスティングを習い直そうと購入したのがこの本である。

 著者は、日本のフライフィッシングの黎明期から大きな足跡を残してきた沢田賢一郎氏である。氏は1972年に日本で最初のキャスティングスクールを開設した、と書かれているので、僕が10歳の時である。

内容を目次から紹介すると、

第1章 フライ・フィッシングはキャステイングが決め手

(1) 独学でマスターする方法

(2) 短時間にマスターするためのタックル

(3) レッスンを始めるための準備

第2章 シングル・ハンド・キャスティング

レッスン1 グリップ/姿勢/スタンス/基本動作

レッスン2 シングル・ホール

レッスン3 フォルス・キャスト

レッスン4 左手と右手のチェック

レッスン5 ダブル・ホール

レッスン6 ラインを伸ばす

レッスン7 シューテイング

レッスン8 ダブル・ホールのチェック

レッスン9 リスト・タウン

レッスン10 ロング・ストローク

レッスン11 ショート・ストローク

レッスン12 ハイスピード・ライン

レッスン13 スロースピード・ライン

レッスン14 高く伸びるライン

レッスン15 ループの形と用途

レッスン16 フレゼンテーション

レッスン17 シューティング・ヘッドの投げ方

レッスン18 サイド・キャスト

レッスン19 ロール・キャスト

レッスン20 スピード・キャスト

第3章 ダブル・ハンド・キャスティング

(中略)

フライ・キャスティング用語集

フライ・キャスティング競技記録

あとがき

と、なっている。美しい渓谷での伸びやかで流麗なキャストや、解説用の芝生での練習風景、写真を補うイラストなど、長い時を経てもまったく色あせていない、素晴らしい内容である。

 特に良かったのは、用語集が巻末にコンパクトにまとめられていることで、フライ・キャスティング初心者にとって、敷居が高い原因の1つとなっているカタカナ言葉の多さを補ってくれている。

あとがきを引用すると、

 朝からロッドを振り続け、午前中の釣りが終る頃になると、ふと、自分のキヤスティングを考えることがある。昼までに何回キャストしたか数えてもいないが、満足出来るキャスティングは何回あったろうか、思い出せるのはほんの数回きりある。

 それではミス・キャストは何回あったか? これも数回ある。というと残りは何だろう。日く、惰性の釣り用のキャストである。

 多くの付き合いのいい魚は、そういう時にも必ず挨拶してくれるが、中にはそうでもない奴がいる。そのような時は一瞬の聞を置いて、緊張したラインを投げてやる。殺気に満ちたラインが水面をかすめるように伸び、フライが狙った地点へ落下するというより、忽然と現われて流れ始める。やがてフライは変化に富んだ水面を、まるでリーダーに結ばれていないように流れて来る。そしてポイントに差しかかった途端、飛沫と共に消え去る。

 素早く上げたロッドに、ずっしりとした重みが伝ってくるのを感じた時の感激は、言葉では言い表わせない。この1尾の魚は、なんとなく釣れてしまった100尾の魚よりも価値がある。

 この感激を昧わいたくて、より一層困難なポイントに立ち向うようになる。魚がいない所なら構わないが、大きな魚がいるとなれば、そこにフライを上手に送り込めないということは我慢出来ない。キヤスティング・テクニックを磨こうと思った理由の一つが、この納得のいく華麗な釣りである。そして良いラインだけが描く曲線の美しさも、感動的である。

 難しければ難しいほど、良いラインを投げる能力を身につけるために、キャスティング競技に参加したのも、大変勉強になった。トーナメントで勝つには、自分の能力を極限まで磨くことは勿論だが、最も重要なことは、自分のペースではなく、指定された瞬間にそれを発揮しなければならないという事だ。釣り場で最も要求される能力を収得するのに、これはうってつけの練習でもある。

 キャスティング・テクニックを文字で表わすということは、私にとって大変困難なことである。

 結果的に、本を読んですっかり理解出来たという人は皆、そのキヤステインクが出来る人で、本来、出来ない人のために書いたはずなのに、キャスティングの出来ない人は、本を読んでも解からないというのが現状である。

 本書で写真を多用したのは、文章による誤解を少しでも減らしたかったからであるが、実際のキャスティングを見ても、なかなか理解出来ないのが普通であるから、写真がどの程度役に立ってくれるか心配である。 著者として誠に無責任な言い方だが、本書が多くのキャスターのために、少しでも役に立ってくれれば幸せである。

昭和60年8月
沢田賢一郎

 近所に良い練習場を見つけたので、この春からは、実際に釣りに行く日以外は、しっかりとこの本を読んで、再度チャレンジしてみようと思う。

 しかし、この名著が、いくら古いとは言え、300円で買えてしまうことを考えると、数万円のロッドを次から次へと買っていた頃のオロカさ度合が身に沁みる。

2020/03/14

本棚から   目次へ

サイトマップ

ホームへ

お問い合わせ

↑ TOP