本棚から
留学に役立った本 日本人をやめる方法
杉本良夫 著 ちくま文庫 刊
ISBN 4-480-02776-9
日本人のアイデンティティー、日本脱出、国際化、英語習得、差別問題、国籍、海外との摩擦などの話題について考えるのにとても参考になる本を読んだのでご紹介いたします。
杉本良夫さんの「日本人をやめる方法」、ちくま文庫、640円+税、です。
著者の杉本さんは、社会学博士であり、現在オーストラリアのラトローブ大学人文・社会科学部の教授です。最近はNHKのラジオにも出演されているそうです。二十年を越えるオーストラリアを中心とした海外生活から得られた体験を独特の鋭い視点で考察しながら、日本という国、日本に生きる人々を論じています。
本書の目次を以下に引用します。
プロローグ 戦略としての相対化
第一部 日本社会の深層を縛るもの
障害としての「班」の思想
「籍」の思想との対峙
「ものいえば唇寒し」からの自由第二部 「脱日本」への道標
「日本からの難民」という範疇
越境主義への招待
移民一世の楽しみ第三部 日本人論からの解放
日本礼賛論のからくり
あべこべ日本人論
「日本人勤勉論」を再考する第四部 概念構築の根底
「考える」ことを考える
英語習得の落とし穴第五部 個人の国際化への関門
テクノクラートの国際化
ビザ制度の背後にあるもの
レイシズムとの戦いエピローグ 新世紀の冒険者たちへ
目次にはちょっと難しい言葉もありますが本文はとても読みやすく面白いです。エピローグに書かれている、「海外定住に立ちはだかる六関門」「脱日本人への十カ条」などは特にこれから海外へ出てゆく方にはとても有用なヒント、心構えが書いてあります。
また、あとがきには
「日本人全体が上昇するエスカレーターであり、自分がその上に乗っているような気分を持つ人が日本社会の中で増えてきている。そういうまとまり方は危うい。エスカレーターがどちらの方向に向かって動いているのか。自分自身はエスカレーターのどこにいてどちらを向いているのか。そういう問題を立てることが、自己防衛に役立つ。あるいは、そういうエスカレーターから途中下車してしまうのも、ひとつの手だてだというのが、本書の提案である。」
と書かれています。私自身も会社員時代、毎朝使う地下鉄駅の長い長いエスカレーターで地上へ運ばれながら、段々のステップが水平になる最後の瞬間に、
『このまま定年まで、このエスカレーターで運ばれるのだろうか....』
と自問自答していただけに、このあとがき、そして本書の内容は身に沁みて実感するものがありました。
ぜひ、ご一読をお勧めします。