本棚から
Wingtips より 鳥と飛行機 どこがちがうか
ヘンク・テネケス 著 草思社 刊
ISBN 4-7942-0918-5
裏山の斜面にある桑畑で、チェーンソーで桑の古木を伐ったり草刈り機で雑草ともつれ合ったりしていると、いつも、どこからともなくトビのつがいが現れる。谷の一番深いあたりから、こちら側の斜面の上空まで、ゆっくりと旋回しつつ徐々に高度を上げてゆく。
ははぁ、あの辺に上昇気流が出来ているのか.......
ご存知のように、トビの尾は、水平に付いている。方向を変えるときにはそれを傾け、おそらくは翼の両端も少しひねりながら旋回するのだと思われる。いつかはリアルなワシ・タカ型のモーターグライダーを作りたいな.....などと考えながら見ていると、ふと、
トビの体重、翼面荷重、翼のアスペクト比などはいったいどのくらいになるのだろうか?
という疑問が沸いてきて、地下鉄車両の搬入口ではないが、ちょっと眠れなくなるような気がした。翼幅やアスペクト比は、鳥類図鑑や写真から分かるだろうが問題は体重である。動物園に電話をしようか?それとも強引に.....(笑)
数週間後、市立図書館で航空機関連の蔵書を眺めていると、「鳥と飛行機 どこがちがうか」という本が目に付いた。ぱらぱらとページをめくると、ありました! 疑問の答えが!
日本のトビそのもののデータではないのですが、ヨーロッパの猛禽類のデータがありました。
種類 | 翼幅 (cm) |
重量 (g) |
翼面積 (dm2) |
翼面荷重 (g/dm2) |
アスペクト比 |
---|---|---|---|---|---|
イヌワシ | 210 | 3,772 | 54 | 69.9 | 8 |
ノスリ | 135 | 1,020 | 27 | 37.8 | 7 |
チュウヒ | 135 | 713 | 22 | 32.4 | 8 |
オオタカ | 125 | 713 | 26 | 27.4 | 6 |
ハヤブサ | 106 | 816 | 13 | 62.8 | 9 |
モグラ400 | 140 | 465 | 22 | 21.1 | 8.9 |
スカイ カンガルー |
144 | 720 | 25.6 | 28.1 | 8.1 |
NORA400 | 143 | 590 | 27 | 21.9 | 7.3 |
イヌワシは大型のためか、翼面荷重が大きめであり、ノスリ・チュウヒ・オオタカなどはだいたい似通った翼面荷重を持っている。ハヤブサは小型ですが、飛行速度が速く急降下戦闘機的な飛行特性を持つので、大きな翼面荷重となっている。
手持ちの電動ラジコン機は、翼幅・重量・翼面荷重ともノスリ・チュウヒ・オオタカクラスの数値なので、猛禽類のリアルなスケール電動グライダーも、なんとか設計できるだろう。問題は操舵系統か?
さて、この本にはさらに、ガガンボからキイロショウジョウバエ、モンシロチョウ、アゲハチョウなどの昆虫、ホバリングの出来るハチドリ、ハヤブサ、オジロワシからオオハクチョウといった鳥類、さらにハンググライダーからシュライヒャーASK23、はてはF-14、F-16、ボーイング737から747まで、とどめは人力飛行機にプテラノドン! と、ありとあらゆる有機・無機の飛行物体の重量と翼面荷重、巡航速度が網羅されたグラフが載っているのである。
このグラフは、横軸に翼面加重、縦軸に重量をとり、両対数で示されている。すると、体重1gに満たない微少なユスリカから総重量350tを越すジャンボジェットまで、これらの飛行生物・物体が持つ数値は、ほぼ直線上にプロットされ、おおよそ一定の比率があることがわかる。これはすなわち、ある重さの生物・物体が飛ぼうと思えば、それなりの大きさの翼が必要になる-ということである。
この関係から飛び出ているのは、翼面加重の軽い方のグループとして、チョウ・ガ・トンボなど、ワシ・カモメ・ツバメなど、あるいはプテラノドンや人力飛行機・ハンググライダー・ウルトラライトプレーンなどとなる。ヒラヒラ、フワフワ、ゆったり飛ぶグループである。中でも人力飛行機のデータは、翼面荷重の小さい方に大きく外れており、体重のわりにパワーに劣る人体を空中に留めておくために、桁外れに大きな翼が必要になることを示している。
一方、翼面加重の重い方では、ハエ・ハチ、クワガタなど甲虫類、バンの仲間、F-14・F-16・Mig-23などのジェット戦闘機グループが挙げられる。比較的強力なパワーでブンブンと飛ぶグループということか。
著者のヘンク・テネケス博士はオランダ人の航空科学者・技術者であり1977年以降、オランダ気象研究所所長を務められているそうである。テネケス博士のユニークな視点と好奇心は、空を飛ぶもの全般、さらには乗り物すべてに渡って注がれており、大きさと翼、飛行とエネルギー消費、水平飛行・滑翔・ホバリング、そして巨人ボーイング747の成功の秘密まで、読者の疑問や好奇心に答えながら、大空高く誘ってくれる。
模型飛行機好きとしてなによりうれしいのは1章まるごと26ページを「空を飛ぶおもちゃ」というタイトルでまとめており、ゴム動力室内機から凧、ハガキ紙飛行機、太陽電池グライダー「イカレ」、そしてあのゴッサマー・アルバトロスまでを取り上げている。とくにハガキ飛行機については、さらりとではあるが、かなり経験を積んだ人でないと書けないレベルまで言及されていて感心する。
飛行機ファンはもとより鳥や昆虫がお好きな人にもぜひお薦めしたい一冊です。