釣行日誌 NZ編  「5000マイルを越えて」

大淵にて

1997/01/14(TUE)-2

 いくつもの大岩に囲まれ、黒々と静まり返る大淵にやってきた。こちら岸は高い崖になっており、高巻きをして偵察にいったデビッドが手招きをする。崖の大岩から水面を見ると、淵の下流の端に1尾、中ほどに1尾、そして上流側の岸壁沿いに1尾と、3尾もの鱒が群れては餌を補食している。どれも30cmから40cmほどの大きさである。と、そのうち、上流の崖のそばに、淵の底から大物が浮上してニンフをくわえ、また沈んでいった。まわりの鱒が小さく見えた。この大物に狙いを定め、逆手のキャストを繰り返す。ロイヤルウルフ、ハンピー、パラシュート、シンキングドライ、ニンフ、カディスなどなど。しかし、こういう淵の魚はこすいのか、少しも私のフライには見向きもしなかった。ニンフのウェイトが足らず、鱒の鼻先まで沈められないことも原因ではある。負け惜しみになるが、私の経験からいくと、このような大淵に群泳ぐ鱒は釣れた試しが無いのだった。

 ただ一つの収穫といえるのは、この川にも30センチほどの小さな鱒がいるということがわかったことだけである。この川に来て、これまでの二日間で見た鱒はどれも50cm以上の大物ばかりであり、小さな鱒の姿が見えないのがとても不思議に思えていたのだ。

 昼前から降り出した雨は、強風を伴って夕方まで降り続き、ついに二日目は1尾のストライクも無いままにテントサイトまで釣り上がってきてしまった。虫避けクリームを塗りたくった指で握りしめるのでコルクのロッドグリップがべとべとである。リュックはじっとりと濡れ、レインハットも重く垂れ下がる。

 6時を過ぎたところでデビッドが、

「お前まだ釣りたいか?」

 と聞くので、さすがにそれ以上釣り続ける気力はなく、

「もう十分だよ、enough.」

 と短く答える。今日は1回のストライクも無く、数々の木枝と川底の石、自分の足などを釣っただけであった。

 二人でテントに戻り、靴とウェーダーを脱ぎ、火を起こしにかかる。ビルの持ってきたタイヤの古チューブを焚付けにして薪をくべる。古チューブはモクモクと煙を出して長時間燃え続け、サンドフライを追っぱらうので具合がいい。あたりに立ち枯れているマウンテンビーチという木の枝を集めて燃やしていると、こんどはブッシュロビンがつがいで現れる。雌の方は胸が白い羽毛である。彼らの振る舞いに、しばし、不漁の疲れを慰められた。

 焚き火のそばの石に腰を降ろし、なすすべもなく火を見つめる。夏とはいえ、山間部の渓流の夕暮れは冷える。シャツにフリースジャケット、その上にマウンテンパーカを着てちょうど良かった。

 デビッドが夕食の支度を始めた。鍋の中にジャガイモとニンジンを入れて水辺に持っていき、皮を剥き始める。雨の中、合羽を着込んでしゃがみ込み、ひたすらイモの皮を剥く彼の姿を見ていると、ガイドの仕事もつらいものであり、けっして夢物語ではないことがわかる。こんなに釣れない日とかこんなに腕の悪い客(誰かの事)に当たった日には特にそうだろうと思う。石に座ってじっと見ていると、岸辺にしゃがみこみ、雨に打たれている彼の体をマウンテンリバーの流れが貫いているように見えた。


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