肇の魚釣り初め その8  秘密の穴場でコイ釣り

 そのうちにこんだあ名古屋じゃなあ、そのぉ、俺がはいだいぶ大きくなってからだなあ、さっき言った病院からまあちょっと西へ行って北へ行った所に東塾町ちゅう所があって、そこに小学校の同級生が山口だとかいろんなやつがおるわけよ。

 で、そん中の内山政義ちゅうやつと、おれんほうに池があってフナがおりそうだで(いるようだから)釣りに行かめえかっちゅう話になって行っただ。

 で釣りに行ったら、 「ここは釣りをするのにお金がいる所だ」

てなわけで変なじじいが来りゃあがって、

「そんなこたあおら知らんだもんで」

 っていったところがおら銭無いだもんでどっか行けなんとこきゃあがって、頭へきちゃったもんでェ、そっからちーと(少し)行ったさっきの話のナマズ釣る大水路の下流の方へ行っただよ。

 で、ひょっと見たらさあ、田んぼがたとえばこんだけあると、このちょうど部屋ぐらい、稲が植えてないところがあるらぁ、おかしいなぁと思ってそばへいってみたら、そこだけ深くなって掘っちゃってさあ、水深が七、八十センチあってよ、なにか魚が泳いでおるじゃんか、 「やい、内山、やいここで何かおるでやらめえか」

 っちゅうわけで釣ったところが、そこでお百姓さんがなあ、コイを養殖しておるんだ。んなこたぁ知らんわいこっちは。でそのコイがなあ、ちょうどこのぐらい三十五センチぐらいだった。小さいやつでこのぐらい三十センチ、大きいやつで四十センチぐらい。すぐ喰っつくわなぁそんなもなぁ、養殖のコイだもんだい。で、 「コイが釣れた!」

 ちゅうわけで内山と二人で釣って釣って釣りまくって家へ持ってきて、盥へ入れてさぁ、進や勝たちみんなに 「どうだ!兄ちゃんコイをこんなに釣ってきたぞ!」

ちゅうわけだ。そこで、俺も考えただなぁ、

「まてよ、あんまりにも簡単に釣れ過ぎちゃった」(笑)

 と思って考えとったら親父が帰ってきてさ、

「どこで釣ってきただ?」

 とこう言うわけだ。へたなこといってまた張り倒されても困るっちゅうわけで、その大水路で釣ってきただとうそを言ったわけだ。

「どこで?」

「水道公園の裏のちょっとカーブしてゆるいところだ」

ってこう嘘八百を並べたわけだ。そう言ったら親父が、

「おまえがそんだけ釣るもんなら俺はもっと釣る。」(笑)

 とこうだわなぁ。それでそん時に、戦争に負けておたがいこっち来てから(疎開して)津具の村長をした人で親父の先輩でなあ、鈴木林九ちゅう人があった。その人が、まあ親父はフォードをやめてそこへ行っただが、当時の住宅営団(現在の住宅公団)におっただやっぱり。

 その人はもともと営林署のお役人さんだもんで木材関係で営団へ出向するちゅうわけで来ておる。親父はフォードくびになって、倉庫のことや資材のことが達者だっちゅうわけで営団の資材課の方へ行っておる。なんだぁ文ちゃん(文三のこと)じゃないかちゅうわけで心安くなって(親しくなって)、その人がその水道公園のすぐそばの、いまで言うと建て売り住宅みたいな所に営団のその職員宿舎があって、そこにおったもんで、その人も好きなんだな釣りが、で親父は営団へ行って言ったわけだ。 「実はうちの肇がこんなコイを何尾も釣ってきた」

 と、それがそのあんたの裏のあそこで釣ったで、こんだあ日曜日に行こう!ちゅう話になってさ、親父ん達はまぁさつまいもを蒸して練り餌をこしゃう(作る)やらなにやらで張り込んでよぉ(張りきって)行ったちゅうわけだ。おらあもう言うに言えりゃあへんわなぁ、黙っておった。で、晩に親父帰ってきたよ。

「釣れたかね?」

って俺が聞いたらよう、

「それが肇、おかしいぞぉ。フナばっかだ。」っちゅうわけだ。(笑)

「おまえが釣ったときにはコイでも回って来とったんかなぁ?」

 なんて言って。そうしたら親父はまあ遠いだけど、鈴木さんは家のすぐそばだらぁそこが位置的に言って、ほいだもんでおまえ、役所へ行く前早起きして釣る、役所から帰ってきてから釣る、毎日行って

「フナばっか釣れるよ文三君。コイは釣れりゃぁへん」(笑)

--結局バレんかった? いやそれがバレずに騙いておってよ、ここ(東栄町)へ来てからはいおれがユキ(肇の妻:ユキエ)をもらってからだよ、なにかで正月だかみんなでここへ来て飲んでおって進も来ておって、その話が出ちゃってさ、つい俺も酔っぱらったもんでよぉ、

「実は俺あそこの田んぼで.....」

「なにぃおまえこすい(ずるい)じゃないか!」(笑)

親父怒らなんだよ。

「ばっか小僧め!」(笑)

なんて言って。それで、

「やい、それでもフナは釣れたなぁ」

なんて言って大笑いだったがなァ。ふーんとに俺もとうとう嘘があそこでバレちゃって。いろんなことがあったぞう。


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