父の釣り口伝

肇の魚釣り初め その10  秋の日のイナゴ捕り

 ほいからこんだあ、秋になるとねぇ、お袋がさあ握り飯こしゃってよう(作って)みんな連れて行くだ。それで俺と親父は魚釣る。進や勝や牧たちはイナゴを捕るだ。

 あそこらへんは田んぼばっかでしょ、イナゴはなんぼでもおる。お袋も頭いいんだ考えて、こんな袋持ってよう、こんな竹を切ってきて十センチぐらい袋の口に当ててきゅーっと縛るだ。でイナゴ捕ってはその竹筒からぽーんと入れてちょっと押さえておれば逃げんらぁ、ほうすると重たいほどみんなで捕ってよう、それを家に持ってきて、大きな篭へ入れて蓋をして、二日ばか置くだい。そうすると汚い話がうんこしちゃうわけだ、イナゴが。それをねえ、蒸すの。ほうするとなぁ、あの青いイナゴがタコ茹でたようなもんでピンク色になるぞ。

--ほーう。

 そうするとこんだあ夜なべにみんなして足の先がバッタと一緒でギザギザがあってこわい(固い)だろう、あそこを全部取るんだ、足を。それをお袋がなぁ佃煮に煮るだ。こんなに作ってなぁたくさん、みんな近所の衆もうまいうまいってもらってくれてなぁ、ほいでおれ、イナゴの佃煮があると買ってくるだい、懐かしくて。

 こんだぁなあ、太平洋戦争の前には対米関係もちょっと怪しくなってきて、親父がフォードをくびになる時分だわい、くびになるっていったってフォードが無くなっちゃったんでしょうがねぇ。おれが五年生ぐらいん時だなぁ。なんていったらいいのかなぁ、一億総動員令とかいうのが出たわけだ。

 ほいで、日曜日でも休みでも、例えば防空壕掘るとか、町内会で何かやるとかいうことで、そのぉ遊んどるなんてもってのほかだ!ってな空気になってきたわけだ。で魚釣りも行っちゃあいかん、ていうことになって、なあ、で親父も釣りに行けもせんもんで、でおれは行くんだ。そんでまぁ守をしながら行けっちゅうことでおれが進や勝を連れてこづかいちょっと貰ってはフナ釣りに行くわけだ。

 そうするとねぇ、今まで釣る話ばっかしとったんだけど、こんだぁ食べる話になるんだけども、おふくろはねぇ(肇の母:みな)女学校出とるぐらいだから頭は良かったよ。名古屋の人はフナっていうもんはとにかく煮びたしにするしか知らなかったんだけども、うちのおふくろは鮒を捕ってくるとウロコを取って、あのぉ、なんちゅうの、三枚におろしただ。そうするとだいたい骨が取れるらぁ。それをねぇ、フライにしただよ。そうしたらイケル!っちゅうことになってさあ、フナをフライにする。

 それから煮びたしにするにしても、いっぺん焼くんだよ。焼いておいて煮びたしにすると、骨と身がねぇパラパラっときれいに取れるんだわ。で食べるに楽だっていう。それからもう一つはねえ、冬のフナはねぇ腹かいといて(はらわたを出しておいて)高圧釜でさぁ煮ると骨も頭もとろとろに煮える。そこで、味噌を入れて砂糖入れて、なんだなぁフナ味噌ちゅうもんを作るだ。それは保存がきくもんだいなぁ、それをよく作ったなぁ。


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