父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その4 アユの一日最高記録
--アユ釣りの一日最高記録は何尾だった?
アユはねえ、そいつははっきり記憶がある、あそこの設楽はずれていくと製板があるら、あのちょっと向こうにずーっと降りて行く所があるら、そこを中設楽のさかんきのおじさん
(注:文三の義理の兄、中設楽の『さかんき』という屋号の家に住んでいた)
が川買って。だけどおじさん不細工だもんで釣りゃあしえんもんでよう、俺が釣っちゃあおじさんに半分やるっていう約束で釣っておった。その時に十時半頃からなあ三時半頃まで夏の日に釣ってなあ。でそん時はおじさんの家にお客さんが来るっていうわけでよう、まあ持って行かにゃあならんと思ってやめたのが三時ちょっと過ぎぐらいだったんなぁ。で、そこで分けたときに、十時半から三時過ぎまで釣って87尾釣ったな。うん。
--5時間ちょっとか。
そんだけ掛かると忙しいに、ちょっと。ほんに入れる、掛かる、はずす、また入れるっていうぐらいで。それが今みたいに小さなアユじゃない、ほんとの大きなアユだもんなぁ。
--オトリ缶いっぱいになったらぁ。
おーう、いっぱいになった。
--それが何年頃なの?
あれがねえ、おじさんたちが引き上げてきてあそこへ家を建てた時分だもんで昭和二十五、六年かなあ。うん。そん時の竿なんかまんだどっかそこらにあるが、それも自分で作った竿だよ。俺わりあい器用だったでなあ、自分で作った。