父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その7 さかんきのおじさんのウナギ
ほいであのさかんき(屋号)のおじさんも面白いだ。次の日がなにか農休みかなにかの休みでなあ、あの人は獣医で保健所へ出とってなあ、
「おれも保健所休んで行くで、肇出てこいやあ。アユ釣らずに(アユを釣ろう)」
で俺は何かで遅れてオートバイでボトボト行ってあそこを降りて行ったら、おじさんやっとるじゃないか。それで珍しくニコニコしてよ、
「やい、肇、今日は釣れたぞ!」
って言うわけだ、いつも釣れん人が。もう8尾だか釣ったって言うわけだ。
「ほうか、そりゃよかったねぇ」
なんちゅって。そしたらおじさんもしょんねぇんだなあ、釣ったらすぐによう、俺がきれいにオトリ箱作ってやっただもんだい入れときゃいいのによう、手網を石で立ててそん中にアユがおるっていうわけだ。そいだで
「好いたやつをオトリにしよ!」
って言うもんで。行ってみたら1尾もおりゃへんじゃないか!
「おい、おじさん、アユなんかおりゃへんぞ?飛び出ただかなあ」
って言ったら
「そんなことはねぇ、石で高く手網を支えてある」
って言うもんでひょっと見たらなあ、二メートルぐらいむこうになあ、ウナ公がアユくわえておる。アユの臭いがしたもんで、ウナギが穴から出てくりゃがって。
あの時分にはナイロンの網はねえし木綿のぼろ手網喰いちぎって穴ァ空いちゃってよう、ほいだもんでアユをいいほど喰やあがって腹ポンポンになって、まんだ1尾くわえて石の縁にくっついておるだい。
「おじさん、あれ見てみい」
「ありょお!どうやる?」
どうすりゃいいって道具は無いだらぁ、それから俺が手ぬぐい出してよう、そーっと近すいてギュッとつかんでバアーッと跳ね上げて!太かったぞうあのウナギ。この湯飲みぐらいあった。そしたらおじさん言うことがいいじゃん、
「アユよりウナギの方がいい!」(笑)
なんて負け惜しみ言っとるでいかんわ。それからとにかくおじさんの竿貸しょう(貸しなさい)っていうわけだ。そのオトリ死なせたらまあオトリ無くなっちゃうだもんで。それからまた釣り上げてなあ、晩まで釣ったことがあったよ。
昔はウナギもおっただよなあ。そういう笑い話もあったりしたなあ。