父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その9 アユ釣り笑い話
それと面白かったことはなぁ、それは俺がこっちへ疎開してきて会社へ入ってからだ。俺がアユ釣り上手だってことみんな知っておるもんで会社で川買って、名古屋のお得意さんを取り持つ(接待する)、とこういうわけだ。
で、俺と横山と大岩はアユ釣り上手だもんで、朝からアユ釣っておるわけだ。(笑) --ないしょやねぇ(笑)
それで、昼からお客さん来るで、ちょっと竿貸してやって釣らせるけども、昼までにお客さんが食べるだけは確保して下さいということで庶務課長が俺達に頼むわけだよ。(笑)
で、こっちはこすい(ズルイ)だなぁ、またそれを上まわっとるもんで、十尾釣ればよう、7尾しか釣れんていって3尾自分たちで食うわけだよ。(笑)
そうして、俺と横山と二人で釣っていた。大岩は運転手だもんで他へも行かんならん。それでその日名古屋から経理課長なる先生が来たわい。で、その先生に釣らせておったらよう、竿がググッとこう来たじゃないか、やっこりゃ来たなと思って見ておったら、
「伊藤さん!釣れましたァ!」
「釣れましたはいいが、網で受けなさい。」
そうしてみたら網はどっかへ流しちゃってありゃへんだい、やいやいと思ってしょうがないもんで、
「大事に上げなさい、大事に!」
って言って上げてきたらこっちへ来るじゃないか。それから網を貸してやってさあザバッとすくったらよう、お前何が掛かっとったと思う? 大きな川ネズミ!(笑)
川ネズミのこんなでかいやつ!
--そりゃ引くわ。(笑)
そうしたらその先生驚いて竿を放したもんで、こんだぁ川ネズミが川原へ上がってアユ引きずって飛び回ってなあ、あんな傑作なことはなかったなぁ。
--会社で川買っておる時分にあのへんいくらだったの?
あの時分にねえ、昭和四十年から四十三年くらいの間にねえ、七~八千円じゃなかったかなあ。おらの月給が二万円ぐらいの時に。
--わからんなぁ、ピンとこんなあ。
そりゃわからんわい。
こんなこともあったぞ、ほんにそう言えば。滝本君知っておるら。彼がなあ、松岡旅館にお客を泊めて、その衆に釣らせるようにって言って川角のなあ、川角の橋のちょっと下流を買っておっただ、いっつも。そこへ今日は行っておるで、伊藤さん来て教えておくれって言うもんで行ったらよう、ちょうど滝本君が釣っただ。や、釣りゃがったじゃねえか滝本先生、なんて見ておったらよう、向こうから出てきとる木の枝にテグスがオーバーしとるわけだ、ほいで滝本先生が上げるとアユも上がってくるけども手網がとどきゃへんのだ。(笑)
ほいでびっくりこいて糸ゆるめるとまたアユが泳ぐ、笑っちゃってなあ。
そいからねえ、Mさんっていうおじさん。あのおじさんがある時、
「伊藤さん、伊藤さんの釣ったオトリどこにいつもあるかね?」
って聞くもんで、こういう所にあるで持ってきなって言ってMさんは会社の川へ行ったわけだ。で、来て下さいって言うもんで行ったらよう、その時最初は俺のオトリ2尾おっただ。
「Mさん、どうだね?」
って聞いたらよう、
「うーん....」
なんて生返事しとる。
「オトリ1尾殺しちゃってなあ。」
「いいだわい、1尾殺してもあと1尾おるら。」
そうして見てみるとあと1尾もはいこんなんなって横向いて泳いどる。弱っちゃったなあと思ってよう、オトリ箱開けてみただがどだいこだい弱っちゃっておる。
こりゃしょんねぇと思って俺考えただい、会社の川だもんでだれも釣っちゃあおりゃへんら。嫌いな奴は来りゃへんだもんで、好きな奴しか来りゃへん。ようアユが石に付いておるだいなぁ、キラキラと。ようしきたと思って、アユ釣り針にエモ付けて雑魚釣っただい。アカブト(カワムツ)のこんなでかいやつが食いついた。アカブトに鼻環付けて、その追いのいいアユに一生懸命アカブトをしゃっつける(引っ付ける)となあ、しまいにゃあアユも怒るぞ、アカブトが相手でも。(笑)
ダッと追ってオトリを釣って、それで続きを釣ったこともあったしなあ。
そうかと思えば会社の人で、アユ釣っとってウナギにアユ喰われた人もおるしなあ。(笑) ありゃあ、下手なやつはきっとやられるだいなあ。
--それだけウナギもおっただなあ。
おっただなあ、昔は。