父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その10 オトリを喰われた若い衆
おう、こんなこともあったなぁ、それはアユ釣りとウナギ釣りと関連しとるんだけども。川を遊魚券で釣るようになって間もない時分だよ、おれが浦川の方へウナギ釣りに行ったら、今の剛ぐらいの歳格好のやつが釣ってけつかる。
あそこにいい石があるだがなぁ、あいつどっかへ行かんかなぁなんて思っておれはこっちで糸を出して支度をする。それで、おれはこっちで釣っておる、やっこさんは向こうで釣っておる。そのうちにそいつが竿を置きゃがってこっちへ来るじゃねえか。何か文句でもこくだかこの小僧は?なんて思っておったら、
「おじさん!」
て言う。
「なんだ?」
「おじさん、今けったいなことをやっとるがそりゃ何だね?」
って言うもんだいよう、
「こりゃ、ウナギを釣るだい。」
っていったら、そいつが途端にニコニコしりゃがってよう、
「おじさん、いいこと教えてやろうか」
「どうして?」
「僕、ウナギのいるところ知っとる。」
なーんだこの小僧、何を言い出すのかと思って、おれハッと思いついただ、こいつオトリをウナギにやられりゃがったなって。
「それじゃぁお前、オトリをウナギに喰われただらぁ?」
「おじさん良く知っとるなあ、そのとおりだ。」とこきゃがる。(笑)
それからまたおれ言っただい。
「お前、そこの石でオトリを喰われただらぁ、あの石からウナギが出てきたら」
「おじさんなんで知っとるの?」(笑)
「そんなもなぁ、見りゃわかるだ。ここでウナギがおるって言えばあの石しかないよ。」
そうしたらやっこさん、
「ぼく今からどきますで、あそこ行ってカタキをとっておくれん。」(笑)
それからおれ言っただい。
「お前、アユを1尾くれちゃっただもんでウナギ腹一杯だ。こんなミミズを喰うか喰わんか知らんがまぁとにかくやってみるわ。」
それからやってみたら大きなやつが喰いつきゃがってなあ。そしたらそいつがよう、
「僕は、最初こうやってアユ釣っておったら、ウナギが出てきた。それで何たらでかいウナギだって見ておったら僕のアユをヒョーイと喰っちゃって、あの穴へ入っちゃった。」
なーんてこきゃがって、笑わかしたぞう。それからおれが、これから気をつけなきゃだめだぞ、って言ったら、
「たまげた僕こんなウナギ見たの初めて」
なんて言っとったぞ。(笑)
--どっから来た人だったの?
名古屋。(笑)
あの浦川へ行く途中のでっかい石が川へ落ちこんどる所あるら、あそこで。いろんな人がおるぞ、世の中にゃあ。