父の釣り口伝
アユ釣りの夏に その17 アユの料理法、塩辛のことなど
--それじゃあ、ここらへんに伝わるアユの料理法を教えて? ここらへんじゃあ、炙っておくか塩焼きか?
アユ?そうだなぁ、まあ塩焼きで食うか、小さいやつはフライにするか、炙るか。
--塩辛があるわね。
うん。あーの塩辛はうまいぜ。その塩辛も、ほんとに丁寧に作る人は、はらわたのうちで砂の入っておる所は捨てるだでな。おらそんなところちったあ入っておったってかまうこたない作っちゃうけど。
--そもそもどうやって作るの?
それはねえ、塩辛でも二通りあるだい。まだアユが若いうちにはらわたから何から全部一切合切入れて作る塩辛と、卵を持つようになってきて、その卵と白子で作る塩辛と。
で、その若いうちに食べた苔から何からで作る方のやつは、どうだろ、分量比で、はらわたが十として、塩が四ぐらいかな。あれがねぇ、塩っぱくてはうまくないし、甘くけりゃ悪くなっちゃうしさ、難しいだい。それでどうしても素人の失敗は塩を入れすぎるんだ。塩を入れ過ぎてまあ塩味がしちゃって食えりゃあへんけど。
あれはなあ、覚えとくといいぞ。乳房炎ちゅうのかなあ、若いお母さんが子どもに乳を吸われて乳が腫れちゃって病めてたまらんちゅう病気があるわい。そりゃ今なら医者へ行けばいい注射があるかしらんけども、そのアユの塩辛をガーゼなり布なりに塗り付けて、乳房に張り付けるとあんなに効く薬は無いぞ。
--どうやってそんなの見つけだしたのかね?
どうやってかなあ?おらそれだもんで、井戸道行けば肇さんがアユ釣るでなんていってみんな貰いに来るもんでよくあげたもんだよ。
それでこんだあ白子や卵を塩辛にするときには、それよりもうちょっと甘口でなあ、これが卵だとすると塩をここへ置いといては、ぺたぺたと卵に塩を付けては入れ物に入れる、というぐらいでちょうどいいと思うなあ。
--その白子の方は食べたことがないなあ。
ほうか。うまいもんだぞ。まあしかしアユはなんのかんの言っても塩焼きがいちばん旨いだらあなぁ。それと味ご飯が旨いよな。アユ飯っていうのが。