父の釣り口伝
肇の魚釣り初め その15 尾張フォードの釣り大会
それからこんだぁなぁ、そのフォードの重役さんが魚釣り好きなもんだい、尾張フォードでなぁ、まあ簡単に言えばフォード名古屋支店だわい、そこで魚釣り大会があるっちゅうわけだ。
で、若い衆からみんななぁ参加してさ、それでどこでやったかっちゅうとなぁ、いまの津島街道をずーっと行くとなあ、庄内川渡って新川渡って、それからしばらくそうだなぁ二キロぐらい行くとなあ、秋竹っちゅう所があるだ。で幅があの川はそうだなぁ、わりあい広かったなあ、十五メートルぐらいあってやっぱり田んぼの間をこう流れておるんだ。で、
「肇君も来なさい」
って重役さん言ったで、俺も行くっちゅうわけで。使用の竿は一人二本、餌はミミズ、朝の何時から夕方の何時まで釣ってたくさん釣った人にはほうびをあげます、っていうルールになっとった。さあそれで釣ったところが、会社の若い衆ンとう、
「子どもはじゃまだで向こうへ行け」
と言いやがる、カチン!ときたけどまぁしょんないわなぁ(しかたないわなぁ)、おれは上流の方へいって始めてよう、俺ァ上手だもんだい釣るわい。それでたくさん釣っておったらそのうちに向こうで呼ばるもんだい何だって聞いたら、
「魚を持って集まれ」
て言うので行って、勘定したらどうだ、あにはからんや俺が一等よ。親父より俺の方がよけい釣った。
--何尾ぐらい釣ったの?
そうだなぁあん時なぁ、二十センチから十五センチぐらいのフナをなぁ、四十何尾釣っただよ。網袋が重かったもん。それで重たくて持てなくて川の水面をずーっと引いて来ただもんだい覚えとる。それで俺が一等になってもほうびくれンわけにはいかんわなぁ。(笑)その日は俺が一等で親父が二等だった。
「やっぱりお宅の人はみんな上手だなぁ」
なんていってその重役さんが笑ったけどなあ。
--ほうびは何だったの?
そん時の賞品が、その、あれ、何だったなぁ、あのォ今で言うとうちにあるウナギ篭。なかなかよくできた篭でなぁ、俺東栄町へ来てからもウナギ釣りやってこわれるまでその篭使ったもの。で、二等のおじいちゃんがねぇ、魚釣りの折り畳み式の腰掛けだったような気がする。それから親父がねぇ、会社の海釣り大会に行った時はクロダイ釣りで一等になってなぁ、りっぱななぁテーブルクロスをもらって来たで。なにか金糸で刺繍したようななぁ、ちょうどこのコタツにかけるぐらいのテーブルクロスだったよ。