父の釣り口伝
肇の魚釣り初め その19 女性飛行士の落下傘見物
それから今の中村日赤病院なあ、あそこは広ーい沼地だったんだよ。それを埋め立ててあんなりっぱなものを作っただよ。
で、その沼地へ、おれが何年生だったかそれは記憶に無い。無いけど、おばあちゃんとなあ見に行っただ。あのぉ、アメリカ人のなんとかいう女の人が来て、飛行機の上から落下傘ちゅうもんで飛び降りるっちゅうわけだ。見物料取ったんだよそれを。そして今言う2枚羽根の飛行機が飛んできた、名古屋の練兵場の方から上がって。
「やあ、来た来た!」
ちゅうわけで、そうだなぁ、高さがあれでも三~四百メートルの所へ来たんじゃないかなぁ俺記憶にないけど、それからぐるぐるぐるぐる同じ所を回っとってよう、そのうちに黒いものがポトーンと落ちたじゃないか、あれー?と思って見ておって
「やい、落ちてきた!落ちてきた!」
なんて見ておったらパアーッと落下傘が開いてよう、それから悪いことに下の草っぱらに降りるつもりが風に流されてよう、その沼地にドボーンと落ちちゃってさあ。こんだぁ係の人かなんだか知らんが慌ててボートを漕いで助けに行ったりしてなぁ、ほんとにまぁえらい時代だったぞう。
そうして次の日に学校へ行ったらよう、近藤校長が、
「おまえら、昨日落下傘を見たか?」
って言うもんで、
「俺はお母ちゃんと一緒に見た」
っちゅうと、
「おまえらはいい!」
ちゅうもんで、先生どうして?って聞くと、
「おらァなぁ、落下傘じゃなくて、飛行機が初めて飛んで来るっていうのを銭払って見ただぞう」(笑)
そんな話を覚えとるよ。笑っちゃうよなぁ。