父の釣り口伝
腕白たちの黄金時代 その8 カテイもん...
そりゃあみんな貧しかったぞう。となりの家でもそうだ、兄弟があれ十一人だか十二人おったら。親父はさき山で(林業の仕事で)仕事に行く、おっ母さんは家でお蚕を飼うわけだが桑を摘まんならんだなぁ、それで娘達に手伝わしたりして桑摘んでおる。
そのうちに小僧達が学校から帰ってくると今みたいにおやつは無いもんだいよう、裏山の畑でお母ちゃん達が桑を摘んでおる、そこへ下から、
「おかあちゃーん! はーらぁ減ったーっ!」
って叫ぶわけだ。だけどおばさんも忙しいもんで
「うるさいなーあ!お前ら、黙っとれーぇ」
なんて一生懸命働いておるわけだよ。そうするとそのうちに腹減ったー、喰う物くりょおーなんて言っとるんだけども、なんにもおやつなんか無いもんでしょうがなくて。そこでおばさんがサツマイモ茹でたりさぁ、ジャガイモ茹でたりしておけばいいんだがその手間が無いんだ、忙しすぎて。
それだもんでしょうがない、そこのおばさんが
「そんなこと言うならおひつにあるご飯でも喰っておれー!」
なんて怒鳴って返すわけだ。すると小僧達が家に入ってご飯を喰おうと思うんだが今度はおかずが無いらぁ、また出て来てよう、あの頃古戸じゃあおかずのことをご飯に「かって食うもの」という意味で「カテイもん」と言っていたんだ。それで、
「おかあちゃーん、飯はあるがカテイもんが無いよーう!」
って呼ばるんだ。するとおっかさんが怒ってよう、
「カテイもんが無けりゃあ河原の石でも喰らえーっ!」(笑)
そう言い返すんだ。すると中原のおばあがよう、
「やい肇、おとましいで(可哀想だから)しょうねぇでよう、ここに削り粉(カツオブシ粉)があるで、これをご飯にかけてたまりでもかけて食べれって持っていってやれぇ」
なんてなぁ、ようやったもんだよ。
その時にお袋さんと桑を摘んでおったのが、となりの家の娘さんたちなんだが、あの時分に小学校の1、2年生だったと思うが、おれが夏休みに古戸へ来るともう桑を摘む手伝いをしておったでなあ。昔の子どもはドラマのおしんちゃんじゃないけどよう手伝ったんだぞ。本当に。