父の釣り口伝
腕白たちの黄金時代 その13 女の子も雑魚釣った
そうだ雑魚釣りで思い出したが、女の子も雑魚釣っただよ昔は。
--ほーう。
竿で釣らんだい。みんなして水浴びに来るらぁ、それで小僧達は川で浴びたり釣ったりして遊んでおる。女の子達はなあ、岸でなあ、今で言うとオーチャドグラスだと思うだが、牧草でシューッと伸びるやつがあるわい。それが河原の近所にひとりでに種が落ちたりして生えとるのを川麦川麦って言ったが麦によう似た草で。
その草を取って、エモを捕ってよう、先っぽが細くシューッとなっておってわりあい曲げても折れんもんでよう、草の先にエモをこうやって縛り付けてなあ、それを持って反対の手に麦からシャッポでも篭でもいいもんだい持ってよう。こうやって石のところをなぞっていくとジンゴのでかいやつが出てきてよう、草の先に縛ってあるエモをパッとくわえる。ヒュッと上げるとジンゴ(カワヨシノボリの地方名)がくわえておるらぁ、アッと思って離したときには麦からシャッポの中へポトンと入るってわけでよう。女の子達はそうやってはジンゴを釣るだい、鉤やテグスじゃなくて。ほりゃいくらでも釣ったよ。
それとなあ、おかしなもんで魚って言えば普通静かに釣れって言うら、ありゃウソの面があるぜ。小僧ん達が淵でガーツクガーツク男の子も女の子も大勢で泳いでおるらぁ、その淵で魚釣ってみい、いっくらでも釣れるに。よく鯛釣りで、大きな石を船頭さんが放り込んで、また綱で引き上げて放り込んじゃあせると魚が釣れるっていうことを聞くが、ああいう風に魚が興奮状態になっちゃうのかなあ?
それでなあ、俺失敗こいたことがあるだ。あの子は俺より二級ぐらい上だったなぁ。学校のすぐ裏の紀州屋っていう家の娘さんだったがなあ、その子はもう大きいもんでズロースだかパンツはいて泳いでおるだい。
釣っておったらグィッときたもんで喰っついたと思っただいなあ、おう? その子は一所懸命泳いでおる、ズロースに鉤がかかっておる。(笑)
今で言えば「エッチ!」てなもんだいなあ、誰かが引っ張ると思うもんで。俺はそんなこと知りゃあへん一生懸命竿を立てとる。そんなことがあって大笑いだったが、あの子は何ちゃんとか言ったけどなあ。
「なんだいねぇ!誰かわたしのパンツ脱がせるのかと思った!」
なんて言って大笑い。
それでもおかしいほんとにそうだぞ、こんな小さな淵へよう、五人も十人も入ってよう、バッバッバッバッと泳いでおるとなあ、雑魚がいっくらでも釣れる。あれは不思議な経験だったなあ。それからみんながよう、
「そんなわけは無い!」
なんて言ったけどよう、
「やってみよ、釣れるで!」
ようそうやって雑魚釣ったよ。
--なんか水が動いてエモでも浮くんじゃないの?
うーん。それでなあ、浅いところで釣れるだい。深いところでみんな潜ったり泳いだりしておるら、するとこんな浅いところでこのぐらいの雑魚がいっくらでも釣れるんだ。ようやったなあ。