父の釣り口伝
ウナギ釣りのこと その4 ウナギ釣り笑い話 (1)
ある時になぁ、昭和五十年ぐらいかなぁ? 田口(愛知県北設楽郡設楽町田口)でよう、だばだばだばぁと川へ降りて行ったら俺ぐらいの年のおじさんがアユ釣っておるんだ。やらしいなぁと思って見たところぉが、俺が降りて行ったすぐ岸の所によう、石がコローンと岸にひっ付いておって、
「よしこの石におるで、ここならあのおじさんもべつにじゃまするなとも言わないだらぁ」
そうして支度をささっとしてよう、ひょいっとやったら喰いついたもんで、ちょいちょいとズリ出して篭へ持っていったらよう、そのおじさんも竿を岸に置いちゃってよう、俺の方へ近づいてくるじゃないか。
『なんだァこのおじさん、文句でも言うつもりか?』
と思っておったら、
「ほいほい!」
「何だぁ?」
「あんた今釣ったのウナギだねぇ」
「そうだよ」
「見せておくれん。ありょぉ!実はわしも今このぐらいの太いのを釣らぁと思っとる」
って言うもんで、
『何を言い出すんだこのおじさんは?』
と思って聞いてみたら、言うことが面白いんだ。
「わしは名古屋から来たけど、こんな川にウナギがおるとは思わなんだだが、アユ釣っておったらウナギが出てきてわしのオトリを喰っちまったでアタマにきちゃった。でも、昔木綿針でウナギが釣れるって聞いたことがあったで、ちょうと手網が破れたときに繕うようにと思ってミシン針を持っておったから、これなら丈夫だでいいと思って、アユを1尾餌にしてテグスの太いのを縛って、ウナギの入っていった穴に差し出して、取られてはいかんように木の枝に縛ってある」
って言うんだ。
「ほーうそうかん、それじゃ喰っついておるかもしれんぞ」
「それじゃあ上げてみるんねぇ」
というわけで俺もついて行ってみたんだ、そのそばへ。そうしたらいい穴があってなぁ、たしかに糸が入っておる。だが喰いついてはおらんなぁと思って見ておった。 喰いついたもんなら木の枝がグリグリに引っ張られておるわけだが。
そうしておじさんが引っ張ったらスルーッと出て来るわけよ。 「あれぇ?」
「なんだ、喰いついておらんかん?」
と俺が行って見てみたらよう、針の真ん中に糸縛らにゃあいかんのが、端の糸穴に結んであるでいかんわなぁ。(爆笑)それから俺思わず笑っちゃってさあ、悪かったけど。 「何がおかしい!」(笑)
「おじさん、考えてもごらんよ」
「どうして?」
「わしの仕掛けを見せてやらぁ。こうなって真ん中に縛っておるから、引っ張ると両端がウナギの喉に刺さって抜けないから釣れるんだ。おじさんのように端に糸通してやったじゃあごちそうさま!ってなもんだ」
そうしたらあのおじさん怒りゃがって。
「わしゃぁ2尾もアユ取られちゃった!ぜひカタキを取っておくれん」
「やいやい2尾も喰ったんじゃあ...」
と思ったけどなあ、ウナギなんてやつは餌をさん出しゃあそれこそ吐き出すまで喰うだなぁあれ。また喰うだぞミミズを、その後で。そうして釣ってやったがなぁ。
知らんちゅうことは恐ろしいわい。(笑)ホントに。
--ウナギはその人にやって来たの?
ウナギか?おとましいでそのおじさんにやったよ。喜んで持ってったよ。
--そりゃ喜んだら。(笑)
逃げちゃうでよう、ウナギの鰓におじさんの太いテグスを縛ってやってよう、
「これ持って帰りな」
なんて言ってさ。
「一つ利口になりました。嬉しかった」(笑)
そう言っておったよ。
--やってみるだけ偉いじゃんそのおじさんも。
おーう。それがいかにも自信ありげによう
、 「わしもそれぐらいのウナギ見つけて釣る支度をちゃんとしてある」
なんて言っとったでなぁ、なぁにがさて。(笑)