父の釣り口伝
ウナギ釣りのこと その5 ウナギ釣り笑い話 (2)
あれも面白かったなぁ、俺が新城の事務所へ行っておった時に、牟呂の頭首工(農業用水の取水堰)あるら、あの近くに知り合いのおじいさんとおばあさんがおったんだが、そのおじいさんも魚釣り好きだだ。そのおじいさんはいつもコイを釣ってはおったわい。
で、そのおじいさんが言うには、洪水吐のコンクリの下には割れ目があってウナギがおるっちゅうぞん、ていうわけで、事務所の矢崎君が俺に
「伊藤さんはウナギ釣りが好きだで釣っておくれん」
「おう、そりゃいいだが今日はできんぞ」
なんてわけでこんだぁ支度をして新城の事務所へ道具を置いといてさ、
「矢崎君そいじゃぁ近所の百姓屋へ行ってミミズを探して来いよ」
てなわけで。そうしたら矢崎君から電話掛かってくりゃがって、
「何尾見つけた?」
「十尾ぐらい見つけた」
それからよう、新城の事務所の連中に
「ちょっと牟呂へ現場見に行って来るでなぁ」
なんて言ってごまかして(笑)
それから牟呂へ行ったらさぁ、確かになぁ、コンクリートがガラガラと砕けた所へ石が集まって、いい所があるだ。なるほどなぁと思ってたちまち二、3尾釣ってさ。おっただなぁあの時分には、あんなこれっぱかの深さの所でだよ。
そうしてからまんだあそこにいい穴があるでと思って餌を付け替えてヒョイッと竿を入れたら
「ガァクーン!」
と来てさぁ、
「ようし、これは大きいぞ!」
と思ってよう、そこに矢崎君がウナギ篭を持って待っておるだ。グィッと合わせるとようし掛かったんだ。そうしてから
「矢崎君よ! 大きいの釣ったで早く篭持ってこいよ!」
そう呼んでウナギの方なんか見もせんで糸と胴とをギュッと持って行って、
「早く篭持って来いってばなぁ」
なんて言ってたら矢崎君が篭の蓋開けたもんでグィーッと引っぱり出してヒョイッと見たらライギョ!(笑)
あれにゃぁ驚いた(笑)
「うわぁっ!」
なんて声上げてさ。そうしたらよう、その知り合いのおじさんも好きだもんで橋の上へ来て見とるんだ。
「伊藤さん伊藤さん! それ逃がしちゃあいかん!逃がしちゃいかん!」
そう言うもんでびっくりして放した糸をまた掴んでからおじさんに
「どうしてぇ?」
って聞くと、
「そのライギョ俺にくれ」
「こんなの喰ったら虫がわくぞ」
「なぁに案じゃあない(案ずることはない)」
なんて言ってあのおじさんライギョ食べたよ。
--豊川の下流にはライギョおるんだなぁ。
おるだなぁ、太かったよあれ。それだもんで俺、ど太いやつを釣ったと思ってさぁ、ヒョイッと見たらライギョだもん。あれミミズ喰うんだなぁ、あんなもん何でも喰うんだぞ。
それからお前、タウナギっていうものを見たり聞いたりしたことあるか?
--聞いたことはあるけど見たこたないよ。
俺も釣ったことはない、偶然捕ったけど、気持ちの悪いもんだなぁアレ。中国人や韓国人は喰うって言うけど。
--ヤツメウナギじゃないの?
違う違う、ヤツメウナギじゃない。ふつうのウナギっていうのはさ、横から見ると同じ太さで頭から尻尾までいっとるら、あれ、ヘビのとおりだもん、こうスーッと細くなって。で太さがこれぐらいでねぇ、色がこんなような色なんだ。それでなぁ、目やなんか退化しちゃってなぁあるかないかわからんぐらいで泥ん中におるだ。
なんで捕ったかって言ってなぁ、あの用水あるらぁ、あれに泥が溜まってしょうがねぇもんだから、水を止めてバックホウで泥を掻き上げたらなぁ、泥の中からビリビリビチビチ出てきやがってなあ。けちなものがおるっていうわけで行ってみたらタウナギだったんだ。
--ふーん。
あれを韓国の人は薬になるって言って干物にするだってなぁ。
--日本人は喰わないの、あんまり。
喰わん喰わん。
--ウナギの仲間なの?
そうだよ、図鑑にも出とるよタウナギって。
まぁウナギ釣りじゃあ話はそんなもんだがなぁ。