父の釣り口伝
腕白たちの黄金時代 その10 キジ狩りのことなど
それからなあ、冬になるとみんなでキジを捕るんだ。それはどうやって捕るかって言うと、みんなで追っかけて捕るんだ。あれもなあ、都会の人が聞いたら田舎者は都会の者が知らんと思ってウソをこくと思うか知らんが本当に捕れるだ。
雪が降るとなあ、さあガキ大将が非常召集で小僧達を集めるんだ。今日学校から帰ってきたらみんな来いって言って。何でもいいで太鼓でも笛でも音が鳴る物みな持ってこい!とこういうわけだ。
それでみんなそれを持って集合するとなあ、谷の狭いところ、下柿野みたいな場所へ行くだい。そうして向こう側は長兄ぃが大将で10人、こちらはお寺の仙坊が大将で10人、二手に分かれてよう、よーいドン!で向こうのやつらが太鼓にしろバケツの底にしろガンガーン!と叩くとキジがたまげてケンケーンと鳴いて飛び立つわけだ。そうするとそのキジが川のこちら側に飛んでくるわけだ。な。
それでこっちへ来て着陸した頃にようこんだぁこっちのやつらがそれ!っていうわけでまたガンガラーンと鳴らすわけだ。するとまた驚いてケンケーン!と鳴いて逃げるわけだよ。どうだい、キジは飛ぶ力が弱いらぁ、5、6回繰り返しゃあ弱って飛べんようになっちゃうぜ。
で、雪ん中に頭突っ込んでグターンとしちゃうんで、そこを捕まえるんだ。それで俺がそのキジの尻尾を欲しいんだ。ガキ大将に尻尾の羽を少し分けてもらうのがうれしくてなぁ、それを帽子に付けるだい、こうピーンと、陸軍大将だとか言って。(笑)で幸一兄ぃに怒られちゃあなあ、
「俺がせっかく雪が降ってキジを撃ちに行こうと思っとったのにはい小僧どもがそういう悪さしやがる!」
なんて言ってな。あのおじさんは鉄砲撃っておったもんで。
--昔も猟期が決まっておったの?
いや、昔はみんな冬になればやるってなもんだったな。別に夏だって撃っても良かったんだろうけど、夏は何か捕っても肉がまずいし毛は悪いしせるもんで猟はやりゃあせなんだな。今みたいにきちっと猟期が決められておるっていうことは無かったと思うよ。
そのかわり鉄砲だってぼっこいもんだし(ボロいものだし)弾だって自分で詰めとるだもんで。(笑)
それだもんで音が悪かった昔の鉄砲は。いわゆるノンビリした音がしたもんだ。ドォーンンってな。今みたいにパァーン!ていう乾いた音はしなかったな。
--火薬も良くなかったんだらあね。
そりゃそうだ黒色火薬だもん。真っ黒い火薬でよう、砂糖みたいな感じの火薬だった。それを詰めてさ、弾を入れて火薬を入れてさぁなんて。それで最後にこういうてこでな、弾を立てて置いてな、てこの力でこういう棒が火薬と弾を押し込むようになっておるんだ。火薬を入れてはギュッ、入れてはギュッとな。
それで最後にボール紙の厚いような物を詰め込んで、ポタポタッとロウを落として、その後で雷管を詰めるんだ。そうしないと暴発して危ないもんで。
それだもんでどっちみち素人がやるような作業だもんでタァーン!なんていい音がしなんだよ。ドォーンてなノンビリした音で。それでどこの家にもっていうぐらい鉄砲があったぜ。そこの人が撃つか撃たないかっていう違いだけで。下の大家にも中原にも幸一兄ぃの家にもあったってなもんでなぁ。
--ふーん、そんなもんだったのかなあ?
おう、そいで俺なんか下の大家の鉄砲を持ち出してはよう、夏になると浅いところにアユが出ておるらぁ、アユを撃たまいかなんて言って木の上からよう、真下を狙わんと弾が水面を滑ってダメだとか言っちゃってこんな格好して撃ったもんだよ、子供のくせに。(笑) 今なら大騒動だぞ、そんなことしたら。
--それでアユを撃てたかいね?
だめだ。(笑) 絶対水の中の魚は死にはせん。ドカーン!って撃つけどなあ、1尾も捕れなんだ。ほんにアユの背中が出るようなこんな浅瀬に出とるけどなあ、ダメだ。長兄ぃが柳の木の上に登っておってよう、
「アユが集まってきたら俺が知らせるでなあ」
なんて言ってさ、俺達が見ておっては、
「それっ!」
て言うと
「ドォーンン!」
なんて撃つんだ。それからみんなでわぁっと近寄ってみるけどそれでも捕れなんだよ。
--それは初耳だったなぁ。
おう、あの稲淵のなあ、岸から樫の木が出ておるらぁ、あの樫の木に登って長兄ぃが撃つんだ。けどあの散弾っていうのは水の中にはいると急に力が落ちちゃうんだよなあ。
そういうふうにほんとどこの家でも鉄砲があったよ。ちょっと気の利いた家にはみなあった。
--そんなに高い物ではなかったのかなあ?
そうだよきっと。今みたいに猟銃の検査があるわけでなしいいかげんなもんだっただぞ、きっと。
そういうふうに幸一兄ぃっていう人は道楽者だったもんで夏はアユを捕るし、冬は鉄砲担いで歩いとったけどなあ。それで今みたいに獲物を剥製にするなんて技術も無いし、知りもせんもんだい、肉を売るだけだらぁ。だもん幸一兄ぃ達だって家で肉なんか喰やぁせん、みな売ってしまうだい。それだもんでそのキジの羽を欲しかっただい、俺達は。
あの人は俺達が冬に古戸へ行くとよく鳥なんか撃ってくれては肉をくれるもんだい、名古屋へ持って帰っては、お袋がキジ鍋っていうのかそんなふうに料理してくれては近所の人に食べさせてくれたよ。
「きれいな羽だねぇ」
なんて近所の人が言って見ていたよ。
昔は獲物がたくさんおっただなあ、あんな悠長な鉄砲で猟犬も柴犬みたいなけちな犬で撃てただで。そりゃあお粗末な鉄砲だったぞ。筒の長いなぁ、初期の西部劇に出てくるような鉄砲だわい。筒がばか長くて台尻がこれっぱか付いておるような鉄砲だったよ。