父の釣り口伝
ウナギ釣りのこと その7 三ヶ日にも行った
--よく三ヶ日に釣りに行ったんじゃないの?
行ったよ。あそこにもウナギがおったなぁ、三ヶ日の川にも。そうだわい、浜名湖に近いだもんで。
おれが三ヶ日の叔父さんの所へ手伝いに行ってやってさぁ、それから雨が降るような日にゃあ暇だもんで、そこらプラプラと傘さして歩いておって、橋の上から沢を見て、
「この沢は海に近いだもんでどうも鰻がおりそうだ」
と思ってよう、叔父さんに聞いたらあの人はそんな趣味はないもんで
「知らんぞう、俺は。鰻がおるか、鯉がおるかそんなこたぁ知らん」
なんて言ってさ。(笑) 見ると雑魚はおるし、シラハエも泳いでおるだもんで餌はありそうだし、鰻がおりそうだと思ってさ。
それからその次の夏に行ったときに釣ってみたらよう釣れたもんで、チョイチョイ行ったよ。
お前連れて行ったこたぁなかったかなぁ?
--俺は行ったことない。
おまえは連れて行かなんだのかなぁ?洋と憲は連れていったけどなぁ。それが今はお前、ぜーんぶ川をコンクリートで固めちまやがって。鰻の穴なんか一つもありゃせんわ、あの川!
--それは何年頃だったの?
三ヶ日行く時分か?あれが最初行ったのは二十歳か十九の時だが、鰻を釣りに行くようになったのはとにかく自動車買ってからだもんで、昭和四十三、四年から後だろうなぁ。うちの自動車で行っただで。
--ここらへんじゃない所で釣ったのはどんな所があるの?
伊豆で釣ったことがあるし、それから足助か、あそこへ行く途中の沢でも釣ったことがあるよ。ありゃお前が学校に行っておる時分だ。お前を送って行った帰りにどうも鰻がおりそうな気がして、竿を入れたらおったもの。稲武から153号を下って行くと立派なお寺があるらぁ、あの辺の沢で釣ったよ。
--あんな上流まで鰻おるんだなぁ。
おるおる、鰻なんて餌と水さえあればどえらい上流まで遡るもの。