父の釣り口伝
ウナギ釣りのこと その8 ウナギ遡上の不思議
--僕はねぇ、今でも不思議なんだけど、金山(名古屋市中区金山)の駅のそばに公園ができたんだけどさぁ。公園の中に池があって、池の水がポンプで循環しておるんだけど。
--ある日そこで池を見ておったらこのぐらい、大人の小指くらいの太さのさぁ、あれはどう考えてもウナギとしか考えれんのだけど、ウナギが泳いでおるんだわ。循環ポンプの吸い込み口にあるゴミよけスクリーンの隙間から出たり入ったりしては泳いでおるんだ。なんであそこにおったのかなぁと思って。
その川は堀川につながっておるのか?
--うん。排水管は堀川にまで通じておると思うよ。
それじゃ堀川から遡って来ただわい。
--堀川から来たのかなぁ?
そりゃそうだわい。ウナギなんてこんなパイプの中でも通って登ってくるよ。あのロシア人の書いたウナギの一生なんて本読んだことないか?ウナギがいろんな所をくぐって登って行くんだっていう話があるけど。そりゃぁそのウナギは絶対堀川から登って来たな。
豊橋のなぁ、石巻っていう所に水路がずーっと通っておって。その水路の左側の山の奥になぁ、そうだなぁ、たいした池じゃぁない、昔田んぼに水を引いたため池だわい。その池がなぁ、用水が完成したもんだい用無しになっちゃったわけだ。豊川豊川 それで溢れた水はどうなっとるかって言うと、U字溝とパイプで用水路を潜って反対側の沢まで放流されとるんだ。そこでなぁ、ある日のこと大水が出てその池の土堤が崩れて、用水路になだれ込みそうになったんだ。で、若い衆連れて見に行ったところが、用水の脇の側溝を埋めとるだけだもんで、その土を掻き出せば被害は無いっちゅうことで、俺と今村君と矢崎君と三人でスコップなんか持って現場に行っただよ。そうしてとにかく泥を掻き上げちゃってさぁ。
そんなもん昔の人が作った池だもんで大雨降れば土堤も崩れるわいなぁなんて言ってひょっと池の中を見たらなぁ、水がほとんど無くなっちゃって深さが20センチぐらいになっとるんだけど、そん中にこんな湯飲みほどあるウナギが何尾も行くとこは無いもんでバータバータビチャビチャしておる。あんな池の中で。
「それっ」
てなもんだわい。(笑) それでみんな飛び込んで捕まえようって言うもんで、
「ダメダメ、飛び込んじゃぁダメ! ドロドロになっちゃってどっかへ逃げ込んでわからんようになっちゃうから!」
それで、おれが勘考してどうにか捕らまえるで逃げないように見張っておれ、って言って。
あんなところへも川から遡って来るだもんだい。水さえあればどっかから遡ってくるんだよ。あの正吉おじさんの家の牛小屋の池を干した時にもウナギが出たって言ったもの。あそこだってどっからウナギ来たんだ? てな所だぞ。
それで、ここらへんの川でよく子どもたちが瀬干し(カイボリのこと)をやるらぁ。あれをやるとウナギはとろいもんだい捕られちゃうだよ。
瀬干しで水をせき止めると、下流へ逃げれば逃げられるのに上流へ向かって逃げ出すから捕まってしまうんだ。
それともう一つね、ウナギって言うのは、直径二センチぐらいに成長すればそんなに移動しないんだよ。だけど指くらいの太さになるまでのウナギが遡って来るんだでな、人間が想像もつかない場所へ移動するんだよ。
--今ここらへんの漁協で放流しているウナギはどこから持ってくるの?
浜松だかどっかから持ってきておるんじゃないのか?県の方で補助金が出て放流しておると思うよ。
--このへんも田口のへんも?
うん。それでなぁ、昔になぁ、蔦の淵にお前も知っての通り、魚道を開削して作ってあったわけなんだが、あそこで昔は悪ガキどもが(自分も含む、笑)アユを盗んだもんよ。魚道の流れを見とるとアユがピョンピョン遡って来るら、ヒョッと手網で捕るんだ。
そうしてよく見ておると、ちょうどウナギの稚魚、楊子くらいの長さの稚魚が遡ってくる。だけど普通の人じゃああんな急な流れを遡れんと思うんだ。ところぉが、あんな急なところを遡って来るんだ。どうして遡れるんだ?って見ると、石に苔が生えておるら、ツツッと泳いではその苔に噛みついてこらえておるんだ。そうして休んでおってまた遡って行く。
偉いもんだぞぉ!